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秋が訪れ、私は17歳になった。
そういえば誕生日だったと気づいた時には3日ほど過ぎていた。
「お前に子爵家から贈り物が届いているよ」
遅れるのはフロンテ領の管理人さんを経由するため。
郵便物はまとめて管理人宛に届き、緊急でなければそれを月に一度程度訪れる時に届けるためだ。
だからきっと今日が訪問日だったのだろう。
ラッピングされた包みにメッセージカードが挟んであったプレゼント。
送り主は明らかにカードを見ていないと判らない。
包みは開封されていないものの、カードは文字の全面が読めるように挟んであった。
私宛に両親名義で誕生日を祝うメッセージが。
やましいことはないけれど監視されている感が否めない。
以前、私が爵位を笠にしてけしかけていたせいだろう。
「両親にお礼の手紙を書きたいのですが」
ハーパーさんにそう言うと頬をピクリと揺らす。
何かされるのではと恐れているのかもしれない。
「目の前で返事を書くので出しておいてください。受け取ったのに返事がない方が不自然ですので」
真っ直ぐ見据えてそう言い切るとぐっとこらえたハーパーさんがレターセットを持ってきた。
私はお礼と当たり障りのないことを書いて封をし、手渡す。
手紙なんてフロンテ領に来たばかりの頃に書いた以来で久しぶり。
”毎日が充実してますので筆不精になってごめんなさい”と心配かけないように締めくくった。
包みを持って屋根裏部屋へと戻る。アーデンが興味深そうに見つめ、メッセージカードの文字を読み上げた。
「アーデン、書いてる文字が読めるのですか?」
「うん。それよりセシリア、誕生日だったの?」
文字を読んだことに驚いたのに私の誕生日の方が気になるみたい。いつの間に読めるようになったのだろう。
包みを開けてみるとこれからの季節にちょうど合いそうなストールが入っていた。
貴族御用達のちょっといいもので無理をしたのではと心配になる。
誕生日ついでにアーデンに年齢を訊いてみる。
なんと既に誕生日を迎えていて6歳になっていたという。
「教えてくだされば良かったのに……」
「ぼくもセシリアみたいに忘れてたんだ」
アーモンドの瞳を細めると私と同じだというように微笑む。
確かにアーデンといるうちに毎日が充実しすぎて日の感覚が判らなくなる。
1日1日が同じようで同じでない。日々が貴重で大事になっている。
小説では日付けまでは判らなかったし、よく考えれば小説では終盤に要となるきっかけの日でもあったことを思い出す。
学園に入学してからの誕生日の翌日、襲われてしまう太陽姫を庇って昏睡状態になるという。
まあ、10年近い先の話ではあるけれども。
「来年は忘れずに祝えたらいいですね」
私が残念そうに呟くと、
「ぼくもそう思う。セシリアと一緒に祝いたい」
嬉しくなってギュッとアーデンを抱きしめる。来年の保障なんてどこにもないのに。
「……まあ、とにかく、私が誕生日だからといってご馳走があるわけではないので、今日は特別、あのチョコレートをいただきましょう!」
伯爵令嬢から貰った高級チョコも残り少ない。今の私たちにとっては貴重なもの。
だから大事に少しずつ食べていたけどもう半分以上無くなっている。
かつてお腹が空いてどうしようもない時にひとかけらを半分こずつにしていた。
苦みを打ち消す絶妙な甘みが舌の上で溶けていくのを味わいながら楽しむ特別な品。
アーデンもそういうものと理解してからは必要以上に求めなかった。
むしろここぞという時に一緒に食べるのが定番となっていたから。
「うん。3日前だけど誕生日だから特別」
「えっと、アーデンの分も含めて今回は特別に一つずつですよ。では6歳、おめでとうございます、アーデン」
箱から摘まみ、一つを口に放り込む。アーデンも真似して私に放り込んだあと、にっこり微笑む。
貴重な1つぶを大事にじっくり味わった後、アーデンが私の首に抱き着いてくる。
「セシリアも17歳おめでとう」
そう言うとほっぺにチュとキスをした。ほんの少し、甘い香りが漂っていた。




