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前世を思い出した侍女は呪公子を幸せにする  作者: おりのめぐむ
子爵侍女、前世を思い出す
22/92

10

「セシリア、これでいい?」


 庭の端で一生懸命に草を抜くアーデン。

 フードを目深に被せ、念のため、建物から一番遠い場所での作業。

 庭師には手伝いの子どもがいるとだけ伝えてある。

 制限付きだけど外に出れて嬉しそうにするアーデンを見れて良かったとは思う。

 陽の当たる時間に本当は走り回ってほしいけど目立つことはできない。

 バレた時は立ち向かう覚悟はあるけれど最悪の場合になることは防ぎたい。

 少なくともハーパーさんたちの目に留まることがなければアーデンの身を守れるはず。

 公爵家の一人なのにまともに扱ってもらえず、本来なら貴族教育を始めていてもおかしくない。

 なのに放置されている現状を誰も知らずにいる。

 訴えたくても地位的にも立場の弱い私は隠れるようにしか庇うことができないでいる。

 早く太陽姫と出会えればいいのに。

 王女である彼女ほどの地位があれば隠してでももっといい待遇を与えることができるというのに。

 私のできる精一杯はこの程度だと落ち込んでしまう。

 結局は紙もインクも新しいものは支給してもらえない。最初から支給品の補充はないのだ。

 予想はしていたけど申し訳なく思う。中途半端に興味を持たせてしまったことに。

 今は代わりに心得本を読み聞かせている。アーデンに読んでほしいと強請られたから。

 子どもなら絵本などを読む時期にこのような実用書でいいのだろうかと悩みもする。

 今も草むしりという対外的な理由で外に連れ出してはいるものの、こんなことをさせているのにも葛藤した。

 例え前世の記憶があったとしてもこの程度でしかカバーできない自分の力不足を痛感。

 

「見て見て、セシリア。こんなにいっぱい抜けたよ」


 アメジスト色の瞳をキラキラと輝かせて得意気に微笑むアーデン。

 その顔を見て自分の行いは間違っていないと確信する。

 もっともっと笑顔を増やしてあげたい。ただそれだけでいい。

 いずれは太陽姫との幸せが待っている。その繋ぎとしてこの程度で十分だと思うことにする。

 綱渡りに近い危うい時間を少しでも維持できるよう努力することが私にとって必要なこと。

 兎にも角にも今をしっかりと守ってみせないとね!

 夜、私の傍らでスヤスヤと眠るアーデンの髪の毛を撫ぜる。

 昼間に陽に当たったから疲れたのだろう。湯浴みの後、すぐに眠った。

 食事の量も増えてきて相変わらず細いけど少し背も伸びたような気がする。

 そろそろ髪も揃えてあげた方がいいのかもしれないな。

 伸びきって鬱陶しそうな様子はだらしなく見えてしまう。

 前髪ぐらいなら自分のものを切ったことがあるけどひと様の髪なんかある訳ない。

 その時でさえハサミが斜めに入って真っ直ぐ切れず、最終的には短くなりすぎた経験がある。

 整える自信がないからずっとそのままになっているだけで切るとなると責任重大だ。


「ぼくもセシリアみたいに結えばいい」


 そのひと言でアーデンの髪を後ろでひとつに束ねた。本人もそれでいいと主張したし。

 伸びたとはいえ、結んだ先はほんの少しですっきりと纏まりつつあった。

 もう悩んだらアーデンに訊くことにした。くよくよしてる時間が勿体ないと判った。

 思っていたよりアーデンは柔軟で臨機応変に対応できる男の子だったのだ。

 不当な扱いも理解しているし、とても前向き。だからこそ生き延びたのかもしれない。

 こうなったら少しでも改善方法を見つけて向上したい。私もアーデンに励まされている。

 味方のいないフロンテ領で唯一の存在。お金のためだけじゃなくやる気にさせてくれていると気づく。

 アーデンは外に出れたことや髪を纏めることの方を喜んでいるのだから。

 草むしりついでに庭先の一角でハーブも見つけ、こっそり摘み込んで水差しに浸してハーブ水も楽しんだ。

 庭師が差し入れた休憩用のトマトやきゅうりも丸かじりしてたくさん食べた。 

 夏の間はそんな風に過ごし、季節が移ろいでいった。

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