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前世を思い出した侍女は呪公子を幸せにする  作者: おりのめぐむ
子爵侍女、前世を思い出す
21/92

「セシリア、できた」


 アーデンが書き上げた紙を手に私に見せる。

 夏真っ盛りの屋根裏部屋は小窓を開け広げていてもじんわり暑い。

 風が抜ければ幾分か涼しいものの、太陽が照らす昼間はとてもじゃないけど暑いはず。

 それを物ともせずに机の上で字の練習をしていた。

 アーデンと初めて話してから1カ月。

 ”幸せにしたい”という言葉通り私はアーデンの世話に明け暮れた。

 次第に信頼されていったのか、敬称は付けずに呼ぶまでに親しくなっている。

 屋根裏内では動き回れるようになり、まだ細いけど、ものすごく元気だ。

 外には出せない事情もあり、私なりに考え、文字を教えることにした。

 インクとペンと紙は支給品にあったため、それを使って書く練習。

 お世辞にも私自身が上手い文字を書けるわけではないけど一応見本として与えた。

 覚えて書くのが嬉しいのか紙が真っ黒になるまで埋め尽くした。

 上達も早いからきっと元々が賢いのかもしれない。

 紙もインクも無くなりそうだけど、新しいものは……貰えるだろうか。

 机と椅子は押し込まれていたものを苦労して引っ張り出した。

 雑に扱われていたのが判るぐらい傷だらけで角が擦れていたけど元々は良い品だったようで全然使える。

 何気に他の家具をチェックしてチェストの引き出しを開けてみると中身が入ったままだった。

 入れっぱなしのため、古びてはいたが良い材質の布でこれまた使えると判断。

 テーブルクロスにしたり、アーデンの替えの服を作ったりと勝手に活用した。


「さあ、ランチですよ。食べましょう!」


 勉強道具を片付けて食事を用意する。

 といってもいつもの使用人メシには変わりない。

 ただきちんと配膳し、カトラリーを使って食べるという人間らしい食事にはなっている。

 どうもハーパーさんたちの意向からアーデンの食事は1食に制限していることが判った。

 朝と夜はないけど昼に関してはちゃんと1人分追加で用意されている。

 それを知ってから私は自分の量を多めに取り分け、アーデンに分け続けている。

 ランチはがっつり1人前が食べられるのでここぞとばかりに頬張ってるけどね。

 分けていることを知られているから白い目を向けられるので食事はアーデンと取っている。

 その際にスプーンとフォークしかないけど細やかな食事マナーを伝授している。

 最初の頃はがっつくように食べてたけど段々と丁寧になっていった。

 本当に賢くて可愛い男の子である。

 時折、屋根裏の窓から外を見下ろす姿を見て自由にさせてあげたいとも思う。

 だけどそんなことをしたらアーデンの身が危険になることも考えられる。

 どうしたらいいんだろう。


「いいかい。今日の午後から庭師が草むしりに来るからね。お前も毎日終わるまでずっと手伝うんだよ」


 春以降、手入れをしていなかった庭は草が伸び放題になっていた。終わるまで半月ほど掛かるだろう。

 夏の午後といえば一番暑い盛り。やっぱり面倒なことを押し付けてくるのは変わらない。

 夕食準備までの数時間、フードを被って陽を遮りながら、休み休みで黙々と別荘近くの草を毟る。

 訊けばいつもなら侍女二人が毎年手伝っていたという。やっぱり!

 ひと気のない広い庭には私と庭師のみ。全く出てくる気配のない使用人の姿を見ることなくシンとしている。

 今日はここまでだという庭師を見送って調理場に入るものの、誰もいない。

 野菜を洗い終え、どうしようかと思っていると慌てたように料理人が駆け込んできた。

 寝ぐせのあることからのん気に昼寝でもしていたらしい。他のみんなもそうなのかもしれない。

 火も起こしてあるし、準備は終了しているからあとは任せたまま、経過を見守る。

 何も言及しない私を無視しながら料理は完成し、いつもの夕食が始まる。

 すっかりと使用人たちはだれきった生活になっており、こんな日が数日続くので私は決意した。

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