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〝グリフィス公爵家にて侍女募集″
その募集要項を目の当たりにし、驚いた。
だってだってこのアレクシスラント王国の筆頭公爵家なんだから。
グリフィス公爵といったら名門中の名門。王族に並ぶぐらいの地位と権力の持ち主。
そんな公爵家が侍女募集だなんて夢のようでラッキーとしかいいようがない。
そんな上手い話が目の前に飛び込んできてるんだから何度も何度も見返した。
貴族であれば年齢も教養も不問。しかも給与が高額。応募すれば採用だなんて信じられない。
応募条件を当て嵌めても本当に偶然としかいいようがないくらい好条件でツイてる。
このタイミングでまだ貴族の娘で良かったと涙ぐんだ。
まるで私に示し合わせたかのようにここで働けと言わんばかりの啓示。
嬉しすぎて速攻申し込みを行ったのは言うまでもない。
両親にも報告し、すぐに採用通知が届き、1週間後には応募者が集められて通達があるらしい。
あっという間に当日を迎え、意気揚々とのり込んだ。
王都に隣接するグリフィス公爵領は広大で城のような建物に迎えられ、採用会場となるホールに案内されるや否や、一歩踏み出したところで固まる。
こんな大人数、聞いてないよ!
と、そこは大勢の若いご令嬢たちで埋め尽くされていた。
ま、まさか応募者がこんなにいるとはっ。しかもここにいる全員採用なんだよね?
ざわざわと賑わう中、圧倒されつつも負けられないと奮起する。
そう、誰がいようともそこで活躍して見込まれるようがんばるしかない。
飛躍が目に留まれば良いところに移れるだろうし、給与UPにも期待できるぞ!
みんなライバルだと言わんばかりに周囲をキョロキョロと見渡した。
それにしてもやっぱりみんなちゃんとした貴族令嬢。
目に入るのはこの日のために誂えたと思える真新しいドレスの群れ。
私みたいに着回したドレス姿なんていないし、そこはちょっと恥ずかしいかも。
雰囲気的にお金に困ってそうなご令嬢は見当たらない。
そう言えば婚約中の令嬢が結婚まで箔をつけるために王宮に務めるってことを聞いたことがある。
もしかしたらこの中にもそういう貴族令嬢がいるのかもしれない。
普通は貴族が収入のために働くなんて有り得ないし、この人数は異常過ぎる。
王宮勤めから選考洩れの令嬢がいるのかもしれない。でも、筆頭公爵家侍女だったら経歴としてはバッチリだし。
ぼんやり考察していたら時間がきたのか、髭を携えたきりっとした老年紳士とエプロン姿の老齢女性が現れた。
「皆様、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。私はグリフィス公爵家に務めております執事長のジョセフ、こちらは侍女長のリンデと申します。只今より、ご令嬢様方の担当をご通達させていただきます。それでは……」
グレーの髪を撫ぜつけ、淡々と周囲に聞こえるよう説明するジョセフさんは手元の書類を確認しながら令嬢の名前を呼び出し、横にいたリンデさんが封書を手渡す。
私も呼ばれ、グリフィス公爵家の紋章が象られた封蝋の押された立派な封書は重く感じた。
「本日、全員にお渡しした封書はお部屋でご確認ください。明日はその内容をご案内させていただきますのでまた同じ時間にこの場所へお集まりください。本日はこれで終了です。それでは当館にてごゆっくり寛ぎくださいませ」
ジョセフさんは綺麗に礼をした後、退室し、リンデさんが声を上げる。
「それではお部屋の方へと案内させていただきます。お名前を呼ばれた方から順にこちらへ」
するとぞろぞろとどこからともなく侍女たちが現れ、あっという間に客室へと案内され、呆然とした。
いや手際の良さはもちろんだけど、封書を配っただけでお終いって何?
今日から働くための準備かと思って気合い入れてたのに拍子抜け。
さすがお金持ちの家は余裕があるのね。私みたいにガツガツしてないって訳か。