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前世を思い出した侍女は呪公子を幸せにする  作者: おりのめぐむ
子爵侍女、前世を思い出す
19/92

 翌朝、目が覚めるとベッドの端っこの方にアーデン様の姿があった。

 もし隙間があったら落ちてしまうというぐらいずっと離れたところで小さく丸まっている。

 ぶかぶかの私のブラウスに包まって背を向けたまま髪の毛しか見えない。

 きっといきなりこんなところに連れ出されて怖いのかもしれない。

 確かこの頃は5~6歳くらいの年齢。前世ではまだ未就学児ぐらいの年頃だからね。

 それなのにあの仕打ち。改めてこんな小さな子どもを閉じ込めておくなんて酷すぎると思った。

 私は起き上がると着替えて朝のお勤めに出向く。


「朝食までゆっくりお休みくださいね」


 眠ったまま身動きしない彼に一応、声をかけてから部屋を離れた。

 顔を洗って調理場に向かうとパンが焼けるいい匂いがした。

 流し台を見るとトレーに載った昨日の食器がそのままありすぐに洗った。

 あとはでき上がったものを取り分けるぐらい。

 調理は料理人の仕事らしく、手伝ったことはない。

 今までせいぜい野菜を洗ったり、皮をむく程度しかしたことがない。

 もちろん、後片付けは私の仕事。それも食後の行動。

 朝のメニューは大体、パンとスープと卵料理といったところ。

 出来上がっているものを6等分に取り分ける。

 一皿分はちょっと少なめ。トレーに焼き上がったパンを追加し、調理場を出ようとする。


「お前は、何をやっているの?」


 すれ違いにハーパーさんがやってきて私を見て言った。


「はい。見ての通り、ご朝食ですが?」


 にっこり微笑みながらトレーを掲げて捨て台詞を残す。


「問答無用ですよね? 準備はできてますし、食後はいつもどおりそのままでお願いします」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔のハーパーさん。何故だか妙な高揚感が増していた。

 屋根裏部屋に戻ると端っこに丸まったままのアーデン様がいる。


「ご朝食ですよ。起きてくださいね」


 優しく声をかけるとそっと抱き起こす。濡らした布で顔を拭く。

 行儀が悪いけど、ベッドの上での食事となる。

 スプーンを使ってアーデン様の口に運ぶ。

 もう皿で直接なんてさせやしない。

 身体は細く、多分、体力的に起き上がることが保てなくなっているのかもしれない。

 クッションなんてないので板壁にもたれさせながらで申し訳ない。

 幸い口を開けて食べてくれるので良かった。パンは余ったのでハンカチに包んでヘッドボードに置いておく。

 とにかく今は体力回復を目指すのみだ。

 調理場に戻ると無人のまま、流し台に食べ終えた食器類が置かれていた。

 隣の部屋では私の分の料理を盛った食器のみが残されている。

 ものの見事にパンはない。今度からはパンも確保しておかないといけないと学んだ。

 とりあえずスープとおかずの食事を済ますとさっさと仕事を開始する。

 この後は忙しい。いつもの仕事とアーデン様にしてあげたいことが山ほどある。

 後片付けを終え、急いで買い物かごを片手に町へとくり出す。

 空を見上げれば緩い雨が降っている。空気が少し生暖かい。

 町に着くといつものように買い出しを行う。野菜や果物、肉類など重いものばかり。

 布を広げて根菜類を包み、肩から背負う。籠には包めないものを入れる。

 いつも数キロ運ぶから筋力はついている。いい筋トレになっているといえる。

 気づけば雨が止んでいる。降り出すと走りたくなるから余計に疲れてしまう。

 でも今日は嬉しいことがあり、リンゴを一つお裾分けしてもらった。

 世間話程度にパンを食べ損ねたと伝えたら内緒だよと八百屋のおばさんがウインクした。

 余分なお金を持ってない分、こういうことは滅多にない。

 顔なじみとして愛想よく挨拶していた賜物だと思う。本当にありがたい。

 これはアーデン様のデザートにしよう。

 もう雨は降っていない。雨季が明けると本格的な夏が訪れる。

 曇空だけど心は晴れ晴れとしていた。

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