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食べ終えたトレーを手に調理場へ赴こうと別荘に向かうが鍵がかかっていた。
外から乱暴にドアを叩くと驚いたようにステラさんがドアを開ける。
「ハーパーさんに話があります!」
強い口調で言い切るとステラさんはハーパーさんを呼んできた。
「出てこないようにと伝えたはずだよ」
怖い顔をしながらハーパーさんは蠟燭の灯ったランプを片手に外へ追い出すと私をなじる。
辺りは夜に近づき薄暗く相変わらず雨は降っていたものの小降りへと変わっていた。
「あの子は誰ですか?」
遮るように切り出すと一瞬狼狽えた。
「お前には関係のないことだよ。あそこにはもう近づくんじゃないよ、分かったね!」
「……あの方はアーデン・グリフィス様ですよね?」
そのまま室内に戻ろうとするハーパーさんに切り込むと驚いたように振り返る。
「公爵様はご存じなのですか? アーデン様のあの扱いについて」
強気に顔を近づけると一瞬ひるんだが、ふっと笑みを浮かべる。
「お前のような一概の令嬢ごときを公爵様がお相手するはずもない。それに……」
「それに、ブランディン様の後ろ盾があるからバレない、とでも?」
ハーパーさんが息を呑む。どうやら図星の様子。
「確かに私のような令嬢ではお相手されないかもしれないわ。ですがお父様を通じて公爵様に直接お伝えする伝手はありますのよ」
「な、何だって!」
嘘八百だ。だけど今まで黙々と仕事していた分、私のような小娘が反発してこなかったことで効果があるはず。
所詮は王都から離れた領。情報はほとんど入ってこないはず。仮初めの採用とタカを括ってたに違いない。
的を得たのか見るからに動揺し、狼狽え始めた。
「それに、このフロンテ領に配属された貴族侍女に対する扱い。王都の執事長のジョセフさんや侍女長のリンデさんはご存じなのかしら?」
いかにも親しげだという態度で微笑んで見せる。はったりでも何でも貴族令嬢の肩書きを前面に押し出す。
「あら、誤解なさらないで。私はグリフィス公爵家に雇われていたいだけなの。こちらに回されたとしても侍女の座を辞したくないだけ。毎年応募するよりは留まった方が印象づくでしょう? だからここで起こったことを告げ口するつもりはないの。……ただ、アーデン様にあの扱いはないでしょう?」
「あの忌まわしい子はグリフィス公爵家に相応しくない。奥様は疎まれておられた。ブランディン様だけが公爵家の跡取りに相応しい方なんだよ!」
「だからといってあの場所に閉じ込めて何をするつもりなの?」
「アレは呪われた子ども。踊り子なんて下賤な母親の元で産まれた必要ないモノだったのさ。勝手に産まれたのだから勝手に死ねばいい。私らはきちんと預かっている。異国の血をひく得体のしれない異物だからこちらの風土に合わないのは仕方のないことさ。途中でくたばっても当たり前だ」
これは完全にヴァネッサに毒されている。直接手を下さず、弱体化させて殺すつもりなんだ。
彼は物語の中でこんな状況化でも生き延びた。放っておいても助かるはず、だけど……。
でも、私は、人として見逃すことなんてできない!!!
「そう。でしたら私がアーデン様の世話をするわ! もちろん侍女としての仕事もきちんと勤めるわ。このことは黙っていてあげるから、貴方たちも私のすることに口出ししないで!」
「な、何を……」
「さもなければ公爵様に直接お伝えするわ。いくらブランディン様の後ろ盾があったとしても貴方たちは追い出されるに違いないわ。……だって、ブランディン様を煩わせてしまうのだから」
これ見よがしに手の甲を口に当て貴族令嬢のように微笑んで見せる。
ハーパーさんは唇を嚙み締めながら拳を震わせていた。
「勝手におし! ただし、今までとは変わらないから覚悟しておくことだね」
「ええ、望むところだわ。だから、こちらのすることには口出し無用で成立よ!」
そう言い切ると次の行動へと移すことにした。




