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前世を思い出した侍女は呪公子を幸せにする  作者: おりのめぐむ
子爵侍女、前世を思い出す
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 腕が痛い。雨に濡れたせいか、少し寒気が襲う。

 それに加え、さっきから頭がガンガンする。気分が悪くて吐き気がしそう。

 ハーパーさんに引っ張られたまま、別館裏口に戻されるとここから出てくるなと告げられた。

 這うようにして急な階段を上り、屋根裏部屋へと戻る。

 ローブを脱ぎ捨て軽装になるとベッドに倒れるように横たわった。

 熱が出てきたのだろうか、全身が熱い気がする。体がだるい。

 朦朧となりつつある脳内でぼんやりとさっきの出来事がよみがえる。

 真っ黒い姿のやせ細った小さな男の子。

 ……あの子は一体、誰?

 小屋の外に出されるほんの一瞬だけ、重くのしかかった髪の隙間から瞳が見えた。

 それはアメジストの宝石のような輝きを持った紫色。

 どこかで、何か……?

 こめかみにズキンとした衝撃が走った時、目の前が真っ暗になった。

 めまいとともに頭の中を何かが駆け巡る。

 それは走馬灯のように一人の女性の人生を現しているかのよう。

 目が回る。思考がついていかない。意識が、と、ぶ……。



 ガンガンガンと大きな物音が響く。何かがテンポよく激しく落ちていくような音。

 そして意識が浮上する。目が覚めると屋根裏の風景。

 熱っぽい身体も激痛が襲った頭も嘘みたいにすっきりしていた。

 上体を起こし、自分の身体を確認する。ちゃんと動くし、異常もない。

 私はセシリア・フェルトン子爵令嬢、だと。

 脱ぎ捨てたローブなどを片付けてようとベッドから離れると何かが視界に映る。

 段が下がる手前の踊り場に料理の載ったトレーが置いてあった。

 まだほんのり暖かく、誰かが置いたばかりなのだと判った。

 さっきの物音からデリアさんあたりが運び、慌てて立ち去るために階段で転んだのかもしれない。

 気になったので覗いてみるけどもうひと気がない様子。

 あの調理場で食べるいつもと変わらないような料理。トレーにはパン、スープ、チキンの盛り合わせが並ぶ。

 もちろんカトラリーもある。小屋に置いた欠けた皿に盛られたものとは大違いだった。

 お腹が空いたのでここは背に腹は代えられぬとありがたくいただくことにした。

 ベッドの端に腰掛けると膝上にトレーを載せて食事を噛み締める。

 そして頭を駆け巡った出来事をじっくりと思い出していた。

 残ったのは一人の女性の記憶。

 あれはかつての私。いわゆる前世で過ごした私の思い出だ。

 両親と弟の4人暮らしで父が酒飲みという典型的な威圧された家族構成。

 母が逃げ出したことがきっかけで弟は素行不良となってしまい壊れてしまった。

 最終的には一家離散という家庭に恵まれなかった私は一人で生きていくために苦労していた。

 奨学金という借金を抱えながらブラック企業に勤め、最後は過労死したらしい。

 死の間際がぼんやりとして曖昧になっているから仕方がない。

 ともかくその記憶がこの身体に流れてきているのだから死んだのには間違いないだろう。

 そんな中、入社後、初給料を受け取った時、記念にセルフ祝いとして手に入れたのがある小説だった。

 何故それを選んだのかは分からない。ふら~っと立ち寄った本屋で目についたものをいつの間にか買っていた。

 精神的に本を読む余裕が欲しいと思っていたのかもしれない。現実逃避をしたかったのかもしれない。

 分厚いページはなかなか読み進められず、全て読み終わるのに数年を費やしていた。

 そう、内容を全部把握した時にはもう身体が限界を迎えていたのだろうと思う。

 幸せな結末と読破した達成感が満たされたのは良かったといえる。

 だからこそ何度もページを戻りながら読み返し、読んだ部分を思い出しながらページを進めていく。

 しっかりと読み込んでいたからこそ覚えているストーリー。

 とある有力貴族の中で起こる激動の展開。やがて王族を巻き込んでいく憎悪や嫉妬の末の愛の行方。

 不義の子として産まれた貴公子が立ち向かう純愛ロマンス。

 『呪公子と太陽姫~真実の愛への道~』はそんな小説だった。

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