12
とうとう一人になってしまった。
気が付けばいつの間にか二人が退出する日が訪れ、あっさりと別れた。
立ち去った二人の部屋を片付けた翌日、突如、私の部屋の荷物を運び出すように言われる。
どうやら一人のために別館を解放できないというのが理由らしい。
特に持ち込んだものがないため、支給品を箱に詰め、移動先をデリアさんに案内される。
そこは1階廊下の突き当たり、別荘に繋がる扉の右手に広がる廊下の方面へと続く。
行きついた先は外に繋がる戸と上へと続く急な階段があり、そこは屋根裏に繋がっていた。
「今日からここが貴方の部屋よ。前の部屋はきちんと片付けておいてちょうだい」
遠巻きに指差しながらそう言い放つとさっさと階段を下りていく。
屋根裏はもともと一つに繋がっていて板を張っただけの仕切りでいくつか区切られてるだけで扉など存在しない。
屋根のとがった形状部分が一番高く、低い部分ではちょうど背丈で収まる位置にあり、狭く感じる。
両端の低い部分の壁際には明かり取りの小さい窓が等間隔にあり、かろうじて室内を照らしていた。
仕切られていない天井の素材は丸見えで少し動けば埃が舞い、蜘蛛の巣が張っているのが分かる。
区切られただけのスペースには同じ用途の古びた家具がぎゅっと詰め込まれていた。
雑に運ばれていたことがわかるようにどれもが傷だらけで布を被せず放置され、使われていないのが窺える。
そして不自然に一番端のスペースだけ、大きなベッドが1台平置きされていた。
かつて誰かが使用したのか、埃の溜まったままのシーツなどがそのまま残されている。
部屋とはいい難いここがどうやら私の住処となるらしい。
なるほど、最長3カ月で辞めていったという意味が理解できた。
令嬢がこんな場所で寝泊まりするぐらいなら……と辞意を口にするのも頷ける。
でも不衛生な面では多少問題あるものの、掃除をすればどうにかなりそう。
ここまでして追い出そうとする理由は解らないけど、私にとってはまだ耐えられる範囲内。
崖っぷちの貧乏貴族、侮らないで!
退出した部屋を完璧に仕上げ、屋根裏部屋も寝れる程度には片付けた頃、雨季に入った。
何も言いださない私を奇特の目で見るハーパーさんたちを尻目に雑用をこなす日々。
しびれを切らした使用人たちはついにこの時期に面倒なことを押し付けるようになった。
毎日降り続く雨。ほとんどが室内の仕事に置き換えて誰もが極力出歩くことをしない。
そこで人数が増えたから買い出しの回数が増えたと愚痴られ、買い物かごを差し出される。
以前は配達人から食材を届けられていたが少人数になってからは自分たちで買い出しに行くようになったらしい。
町までは徒歩で約1時間。しかも雨の中といういかにも嫌になりそうな買い物。
雨足が弱まった時に出発しても帰ってくる頃には必ずずぶ濡れになるという厄介なお使いとなる。
けれど面倒ごとはあるものの、食事は抜かれることもなく、暴力が振われるわけでもない。
こういった雑用を押し付けるのみの負担が増えるだけで、その分ハーパーさんたちは息を抜いている。
自分たちのしたくない嫌なことを私に任せることで矛先がおさまっているのかもしれない。
多分、普通の令嬢であればもうとっくに辞めてるような環境といえる。
最低限の衣食住の覚悟があった私だからこそ、耐えられることなのかもしれなかった。
むしろこれ以下の環境に慣れておかないと平民になった時は想像もつかない。
そもそも着てる服は仕立ての良いお仕着せだし、食事に関しては3食不足なく提供されているし、部屋は屋根裏とはいえ、ベッド付きで立派なものだろう。さらには変わらなく給金も貰えているのだから。
まあ、使用人たちの小間使いという現実に目をつぶれば何ともない。
することがなく飼い殺されていた頃より、良くも悪くも充実して働いているからマシな気がする。
何も言わない私をいいように使っているのは否めないけど。