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食事が終わると早々にこれからのことがハーパーさんから私たちに告げられた。
突然、今日から別荘内の立ち入りが禁止とされる。
既に調理場以外の場所へは入れないように裏階段を閉鎖済。
手入れの必要がないと判断され、もう別荘には踏み入るなということらしい。
ますますすることがなくなるのかと思っていたら、昨日まで食堂扱いの広い部屋の掃除を命じられる。
朝食の件といい、いろいろとモヤモヤした気持ちを抱えながら向かうこととなった。
「驚いたでしょ?」
目的地の部屋に入った途端、アルマさんが笑いかけてきた。
この部屋の調度品を片付けるらしく、3人とも一緒だ。
椅子を磨きながらニコルさんも笑う。
「いよいよ始まったわね」
「そうね。もう貴方も決断した方がいいわ。毎年、長くて3カ月で辞めていくのよ」
「どういうことですか?」
アルマさんとニコルさんが顔を合わせながら意味深に笑う。そしてこれから起こることを話し始めた。
「ふふ。これから先、貴族侍女としての扱いがなくなるのよ」
「そうそう、ただの使用人扱いになるの。あの人たちと同じ立場、同等の使用人としてね」
「それじゃあ、ハーパーさんたちは貴族ではなかったってことですか?」
「そうよ。管理人以外は皆ただの平民よ。でも長い間ここに勤めてたし、そうは見えないだろうけどね」
ニコルさんはくすくすと笑いながら使用人たちについて語った。
料理人と侍女長は夫婦で侍女二人はその娘となり、家族ということだ。亡くなった公爵夫人に気に入られたため、この別荘を任されている。
そこで別荘の1階にある裏部屋に住み込むことが認められ、4人で暮らしている。
まさか別荘内にそんな部屋があったとは知らなかった。2階、3階の広さに対して1階は美術品を保管してある部屋しかないのは不自然だと思ってたけど、裏側に部屋があったなんて。
公爵家の滞在がない間、別荘は実質ハーパーさんたち家族の屋敷ってことになる。なんだか複雑な気持ち。
常駐の一人、庭師は外からの通いで雇われている。これからは庭が見苦しくならない程度で呼ばれるらしい。
「ここに初めて雇われた時はそれはもう天国でずっと勤めたいって思ったわ」
「そうそう、こんな好待遇で給金も貰えてさすがは公爵家よねって」
「だけど、滞在が終わってからが徐々にね」
「ふふ。決して公爵家側からは不当な解雇を言い出さないからね」
二人は呆れたようにため息をつく。その間にも椅子は磨き終わり、長テーブルを磨きだす。
そのあとは椅子をテーブルの上に伏せて置き、布をかぶせた。
手慣れた動作でさっさと作業を終える。5年も務めていると息がぴったり。
「今はまだ序の口」
「そう、最後まで居座ろうとすると最悪よ」
それは経験者のように顔を顰めた。そして口を揃えて言う。
”おいしいところだけ貰ってやめた方が楽だ”と。
あらかた片付いた後、デリアさんがやってきてツンとした態度でアルマさんとニコルさんを連れ出していく。
どうやらあとは私一人にこの場所を任せるらしい。
今までの流れからおそらくこの部屋も閉鎖されるのだろうと悟った。
窓を磨きながら二人の言葉を嚙み締める。
長くて3カ月。そう換算するともう1カ月を切っている。
公爵家側からは解雇宣告しないのならば退職した令嬢たちは自らの意思を伝えたということ。
つまり、この1か月間で辞意を口にするような何かが起こることを彷彿させる。
あの素振りだと二人は最後まで居ようとした経験があり、体験したのかもしれない。
既にやる気を削いで萎えさせているのに対し、さらに貴族侍女扱いを無くすことで貶めているとしたら……。
その一環として始まった使用人とともにする縮小された食事の場が提供されたということになる。
これからどうなっていくのか見当もつかないが辞めるつもりはなかった。
結局、この日以来、食事以外では二人と会うことはなくなっていた。