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 確かに辞めたくなかったんだ。やっぱりきちんと最後まで学び、卒業したかった。

 セシリア・フェルトン子爵令嬢。それが私の持つ肩書。

 学園は貴族の娘としての義務を果たすためにも出会いの場所だったけども。

 だけどさすがにもう無理だと思った。

 これ以上、家に負担をかけてしまっては食べるのにもひと苦労しそうだったから。

 生活するどころか命の危険性のある今、呑気に学校なんて通ってる場合じゃない。

 生きていくためにはお金が必要。

 ……つまりは、働く必要があったから貴族学校を約1年で自主退学したってわけで。

 フェルトン子爵家。

 そう、実は名ばかりの貴族。超絶貧乏貴族。没落寸前の崖っぷち貴族。

 辛うじて爵位を持ち続けてて、爵位返上は時間の問題ぐらい危うい。

 いずれは平民落ちが待っている子爵家なんだ。

 すぐに爵位返上すればこんな苦労はしないだろうけども一応、貴族の責任がある。

 子爵家としてけじめをつけるため、義務を果たそうとしてただ所持してるだけの状態だったりする。

 数年前、とある投資事業に失敗し、多額の借金を抱えてしまった我が家。

 できるだけ負担分を減らして領民を苦しめず、自力でどうにかしようと悪戦苦闘中。

 貴族の義務として借金返済に目途がついたら役目を手放そう!

 それが両親と私で賛同した決意だった。

 放置するのは簡単。だけど先祖代々積み重ねてきた信頼のある子爵家。

 逃げ出して押し付けるのは違うと向き合うことを受け入れた。

 伝統の屋敷を売り払い、使用人を解任し、領地を少しづつ整理して、今では王都の外れの小規模な庭付き借家へと移り住み、自給自足をしながらちまちまと働いてお金を作っている。

 それら全ては返済へと消え去るだけで手元に残らず、本当に危機が迫っているのを肌で感じた。

 元々両親にとって入学に関して学業は元より、貴族として私に良いお相手が見つかるようにと淡い期待を願ってのことだったらしい。

 困窮していく我が家にせめて私だけでもどこかに嫁いで幸せになってほしいと通学させてたらしく、無理を重ねていたことが判明した。

 既にもう家庭内では危うい雰囲気を醸し出したけど、通っている間はどうにか誤魔化してはいた。

 もちろん表面上は取り繕っていても気づいている人はとっくに気づいてたと思う。

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 婚約に関しては身の上調査するだろうし、いずれは消えゆくであろう貴族の娘を嫁になど望む相手なんているはずもない。

 出会いどころか16年間、今の今までご縁のなかった私。

 それに応えることすらできずに両親のささやかな希望を消失させ、困窮状態を目の当たりにして決断した。

 きっと学業に励んだとしても大した能力があるわけでもなく、たかが子爵という身分の女である以上、王宮での働き口など有り得ないと。

 護衛でも文官でも侍女でも、誰もが認め、推薦するような実力がなければよっぽどなことがない限り働くことのできない高給金安定就職先。

 そんな場所で働くなんて夢のまた夢。特別な実力もない私はさらに結婚も無理そうだ。

 だからといって女という性別を生かして身体を武器にするほどは落ちぶれたくない。

 それ以外で思い当たるところといえばどこかの貴族の使用人にでもなれたらいいな、と。

 貴族であればきちんと契約し、尊厳があるから支払いもしっかりと成すだろうし。

 投資を持ちかけて姿をくらましたどこぞの商人よりはマシだろう。

 一応、爵位を持っているけど私が働くにあたっては貴族というプライドなんて捨て置く。

 幸い貧乏暮らしで使用人を雇えない生活を送らざるを得ず、掃除洗濯料理は何でもござれと侍女っぽいことをやっていた。

 それどころか畑仕事をして作物を確保し、どうにか食べてきたんだから、両親とともに。

 これまで学校に通ってた時間を労働に費やせば少しは借金返済の足しになる。

 結婚できない分、働くことで両親に恩返しがしたい。

 とにかく私は働くことしか考えてなかった。

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