メテオストライク 17/17
「私はいい。私はレイと違って。この魔法を捨てたいと思ってずっと生きてきた。お母さんを殺した、この力を恨んでる」
「じゃ、やめとく?」タートゥールが聞いた。
「だけど、使いたくなる時もある」
「じゃ、やる?」
「多分、封印を解いたら歯止めがかからなくなってしまう」
「どうするの、お姉ちゃん」
「だから……私はいい」
「そう。せっかくのチャンスなのに。まあ、いいや。必要ならまた呼んでよ。果物忘れずにね。へへ。じゃ、僕かえるよ」
タートゥールはそう言うと静かに消えていった。
「いいのか?」
レイは俯いているノアに声をかけた。
「うん。いい」
「そうか」
「これで終わりだね。レイは本来の力を手に入れて旅立つし、私はトラヴィスへ行くし。終わり。最後もたいして役に立たなかったなー、私」
とノアはブロードソードを振り回したあと鞘にしまった。
「……終わりじゃないさ。だから俺はシエンナ騎士団を辞める選択をしたんだ」
「……」
「終わりじゃない」
「そうは言っても、私はトラヴィスに行くし…… 次に会えるのはいつ? 1年後? 5年後? 10年後? ……それすら叶わないかも。これが現実」
……分かっている。だが、それでも、
「離れていても。俺は……」
「……」
「ノアとの記憶は消えない。ノアのことは忘れない。どんなに食べても、どんなに寝ても、忘れない。ノアのことを想う」
ノアが微笑んでレイを見た。月の明かりに照らされたその顔は、儚く消えてしまいそうな悲しみを帯びていた。
レイは月を見上げ大きく息を吐いた。
「俺の魔法を見届けて行ってくれないか。嘘つきじゃないって事をさ」
「大丈夫。分かってる。私にはその力があるの分かってるでしょ」
「まあ、そう言うなよ」
「私にはレイはレイで、魔法が使えても使えなくてもレイはレイで、それでいいから」
「うん。ありがとう。だが……」
レイは目を瞑り静かに呼吸を整えた。体の中の生命力を魔法の力の変える。全身をうねるような力がかけ巡り、全ての感覚を失った自分を浮かんで見ているような錯覚に落ちる。飛ぶような意識を繋ぎ止め、レイは胸の前で印を素早く結び禁術の詠唱を始めた。
「レイ。魔法って、まさか! ここにメテオストライク落とす訳じゃないよね」
レイが天を仰ぎ詠唱を続けと、幾筋もの光が空を切り裂き雷が轟いた。強力な力が大気に漲ってきたのを感じることができた。
「大丈夫だ」
そう呟いたレイの全身からは玉のような汗が噴き出している。
「もういいいよレイ。大丈夫。ちゃんと分かってるから」
とノアが隣に駆け寄った。
「もう少しなんだ」とレイは膝をつきながらも諦めずに詠唱を続けた。
「どうしてもやるの?」ノアはレイの必死な顔をしばらく見つめたと「……しょうがない」と呟いてレイに手を置いた。
ノアがレイを右手で支えながら左手の腹をレイに向け意識を集中させる。
それと同時に、レイは体に力の奥底から力が湧き出て来るのを感じた。
……ノアの力が入って来る!
レイが踏ん張って最後の詠唱を終えた時。
空の片隅に閃光が走り一筋の光が地面に落ちた。ドッという音はしたが大した被害もなく周りは静寂に包まれた。レイとノアはその場に倒れ込み、息を切らした体を大地に投げ寝転んだ。
「レイ、やっぱりバカでしょ。そんな、いきなり……」
「ハハ」
ノアはため息ををついた後、空を見つめているレイを見た。
「……おめでとう。レイ。小さいけどできたね。メテオストライク」
レイが辛うじて体を起しヨロヨロと草原の上を歩いて行く。やがて光の筋の落ちた地面で何かを見つけつかみ戻ってきた。
「これをノアに」
そう言って寝転んでいるノアの前に、薄く光を放つ石を差し出した。
「これって?」
「輝星石だ。いろんな種類があるんだよメテオストライクにも」
そう言うと、レイは自分の胸もとから同じように輝く輝星石のペンダントを取り出した。
「輝星石は導いてくれる」
「……どこに?」
レイは頭をかいて空を見上げた。
「……どこかに」
「プッ、なにそれ」
「あまりその辺のことは書いてなかった。ウィルの書物に」
ノアは渡された輝星石をまじまじと眺めた。
「少し色が違うね。オレンジだ」
「願ったことで変わるらしい。このペンダントの輝星石はウィルが希望を願って落としたもの。俺が落としたのは、ノア。……ノアのことを想って落としたもの」
「……そう」
ノアは静かにつぶやくと、もう一度オレンジ色の光を放つ輝星石を見つめた。しばらく見つめたあと「うん」と納得すると、レイを強く引き寄せた。寝転んだノアにレイが覆いかぶさる。
草原の上をサラサラと風が吹く。星が何度も瞬く間、黄蘗の光を放つレイのペンダントと、オレンジの光を放つ輝星石が混じり合うように強い光を放っていた。
「理屈はいいや。どこに導かれるかも分からないけど。私は、この輝星石を持ってトラヴィスへ行くよ。この輝星石はいつかレイのところへ導いてくれる。勝手にそう思うことにする」
レイが微笑むと、ノアはもう一度レイを引き寄せた。
「私はトラヴィスに行く、そこで生きる。だからレイも生きて。必ず」
「必ず! 互いに」
「うん。……だけど、レイの背中は預かっとくよ」
「?」
「シエンナの中庭で言ったろ。何かあったら、背中を預けてくれるんでしょ」
「……」
「離れていても預かるよ。どうしようもない時は駆けてく。まかせて」
「そして、ノアはいつだったか、『私もいる』って言ってくれたな」
「レイは『それは、俺もいるってことだ』って言ってくれたよ」
「ああ、俺もいる。俺も駆けていく。何があっても助ける。助けるための力を欲したんだ。……そのための力だ。先の見えぬ道だが、俺はこの力を習得し皆を助ける。もちろんノアのことも」
レイは自分の手を見つめ握りしめた。
「行こう。互いの道へ」
レイの言葉に、ノアは静かに頷いた。
レイがそっとノアの手を取りにぎると、ノアが強くにぎりかえす。
二人はそのまま手を繋ぎ、夜空に輝く星々を黙って見上げ寝転んでいた。
草原の上には二つ、まるで輝く星のように、レイとノアの輝星石が静かに煌めいていた。
第5章「メテオストライク」Fin
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第5章 「メテオストライク」Fin
エピローグ1
エピローグ2
へ、もう少し続きます。
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