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メテオストライク 15/17

 シエンナ騎士団の宿舎をでたレイは、その日の晩から宿屋に泊まることとなった。宵闇迫る街のなか、寝るだけの狭い部屋の中に一人。暗闇にたたずみ、はじめて自分が一人になったことを強く実感した。


 ……昔に戻っただけだ。


 胸で輝く輝星石を手に取り見つめる。


 ……いや違う。


 黄蘗の光の中、そこにはシエンナ騎士団で過ごした日々が、そして皆との思い出があった。レイはゆっくりと立ち上がると部屋を出た。



 

 その日の晩は、特別にシエンナ騎士団の食堂でご馳走になることになっていた。トーブの呼びかけに「いや、シエンナ騎士団を辞めた身で行くことはできない」とレイは断りを入れたが、「なにバカなこと言ってんだよ。ノアがシエンナの長官バレンに許可とってもらったんだぞ。来ないと殺すぞ!」とトーブに思いっきり叩かれたのを思い出した。


 食堂に入るとノア、トーブ、アルマーマが待っていた。

 レイが禁術の魔法を使うことは公にされないこととなった。またシエンナ騎士団を離れたことも、まだ知らされてなかったので、今まで通りの食事を今まで通りすることとなる。最後の食事は、キャベツ、ビーツ、玉ねぎ、にんにくなど野菜がふんだんに使われたスープと、ニシンの塩漬け、黒パン、オレンジだった。


「レイ、明日も食べにこない?」


 ノアがニシンの塩漬けを口に運びながら言った。


「明日だったらカツレツだ。いや、ニシンもうまいけどさ……」


 レイは黙って静かに微笑んだ。ノアらしい。


「どのに行くか当てはあるの?」


 アルマーマが尋ねた。


「一度故郷のノースレオウィルに戻ろうと思う。祖母の墓に報告したいし」

「そう」


 アルマーマは少し身を乗り出し小声で囁いた。


「で、魔法の方はどうするの?」

「どうもこうも、自分ですこしずつやっていくしか……」

「そんな甘くないわよ」

「……」


 レイは返す言葉がなく頭をかいた。


「これ」


 とアルマーマが丸まった羊皮紙を取り出しレイに渡した。


「セイセルー様から」


 レイが羊皮紙を開くと、そこには地図とセイセルーの署名がなされていた。


「ノースレオウィルからさらに北。北の海に浮かぶ小さな孤島ルーザデール。その地図の場所にいる魔法使いを尋ねるといいわ。セイセルー様がお世話になった魔法使いみたいよ」

「嬉しいな。助かるよ」


 ノアが大きな鞄を取り出してレイの前にドンと置いた。


「私からはコレを」


 鞄を開けると中には干し肉と黒パンがパンパンに入っていた。


「レイとの付き合いは、ここにくる時干し肉と黒パンもらったことから始まったからな。10倍返し。もってけ。私の餞別」

「ああ、ありがとう。こんなけあれば、しばらくは飢え死にしなくてすみそうだ。ハハ」

「ほんとだよ。飢え死にするな。レイもわかってるだろ、ここにくるまでの生活を」

「そうだな」

「食え、とにかく、ちゃんと食え」

「ああ」


 レイはありがたく鞄を受け取った。

 それから、黙って黙々と食べているトーブに声をかけた。


「トーブ、ありがとうないろいろ」

「……」

「怒ってるのか?」

「ちいげえよ。ついレイのことあれこれ誰かに喋っちまいそうだから、黙ってんだよ」

「そうか」

「俺からの餞別はねえ。そんなお別れみたいなことはしねえぜ。レイが……」


 と言いかけて、身をかがめ声を落とす。


「レイがシエンナ騎士団をやめても盾仲間だと言うことはかわらねえ。俺にとってレイはレイだ。なにかにつけて一緒にやりたがるレイだ」

「ああ」

「いつでも呼べ。一緒にやる。どこでも行ってやるから」

「ありがとう。そしてそれは俺も同じだ、いつでも呼べ。また一緒にブルズブートキャンプやってやる」


 トーブがフッと笑って呟いた「俺は黙る。たぶんしゃべり始めたらたまらねえ」そして残ったスープを掻き込みむせた。


「た、耐えて生きろ」


 トーブが小さな声で呟いて拳を出した。

 ノアがアルマーマが、そしてレイが拳をつける。


「ランス、モーラ、ビルバ、ルッカ、ロッカ、サンタン、みんなにも、ありがとうと伝えておいてくれ」

「フッ、叙任式のことを思い出したぜ。レイ、ぜったい生きろ! 何が何での生きろ! 生きろ!! かならずまた会うぞ!」


 トーブが力を入れて皆の拳を押した。


 × × ×


 次の日、レイは朝から図書館に通い、ウィルの軌跡をたどった。どうやらウィルは魔物と故郷を捨てる契約をしたようだった。なるほど、それで放浪の旅をしていたのか。ウィルの姿に自分のこれからを重ね合わせた。


 日が沈むと、その日は肌寒い風が吹いた。3日前と同じように丘の上にあがってきたレイは、シエンナの要塞都市に来た時に巻いていたノースレオウィル特有の長いストールを巻いていた。これをすると、ここにくるまでの日々を思い出す。食べるのも寝るところも、ままならぬ生活。その生活に戻るんだな…… 一抹の不安はあった。そんな状態で魔法を習得できるのか? だが、進まねばなるまい。


 決意をもって一歩一歩、歩みを進める。


 丘の上、草原の草が波打つ中にノアが立っていた。チュニック姿のレイと違い、ノアは鎧を着、剣を携え、シエンナ騎士の正装をしている。


「来てくれたんだな」レイが歩み寄る。

「来ないわけないでしょ」

「ありがとう。だが、今日は契約を結ぶだけ」

「甘いよレイは。何があるかわからない。何があっても今日は私が守る」

「……ありがとう」


 レイは砂地に簡単な魔法陣を描き、天を見上げ丸い月を仰ぎながら呪文の詠唱を始めた。この前と同じように雲が四方から吸い寄せられるように渦を巻いて集まり、その中央が輝き始める。そして青白い子供タートゥールがやってきた。

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