メテオストライク 11/17
宿舎に戻ったレイは、眠れずにずっと魔物との契約を考えていた。
「これまで生きてきた記憶をすべてもらおうか。うん?」
赤い魔物の声、そしてニヤついた顔が脳裏にこびりついていた。
昔を思い出す。やさしかった祖母のこと、憧れの魔法使いウィルのこと、懐かしい故郷ノースレオウィルのこと、辛かった魔法施設でのこと、救いであった風の魔法使いフロンテのこと、鍛えてくれた剣術の師匠アイウェルのこと、強く生きるために来たシエンナ騎士団でのこと、共に訓練を積んだ盾仲間ノア、トーブ、ランス、モーラ、ビルバ、ルッカ、ロッカ、サンタンのこと。シエンナのマントをもらい正式な騎士となった喜びの叙任式のこと。厳しい現実、特別任務、戦争。そしてディック、ソルト、アルマーマのこと。
レイはため息をつき、寝返りを打った。
「1番選びなよ」
サラリと言ったノアが声が、
弱々しく微笑むノアの顔が、
浮かぶ……
ラウドの森での思い出が蘇る。ラクフを殺し苦しんでいた俺に、自分の過去を話してくれたノア。「私は地獄に落ちるよ。でも、私が地獄にいると思うと少しは安心しない? 何があっても」とノアが笑って見せた。「レイには、いつか全てを話しておきたいと思ってた。レイになら、私も背中を預けられると思ったから」
暖炉の火をジッと見つめて話してくれたノアの顔。
忘れるわけがない。レイはまた深いため息をついた。
次の日の朝。
レイは見回り警備の前に時間をもらい、アルマーマとトーブにことの顛末を話した。そしてシエンナ騎士団を辞めることを、静かに去ることを告げた。
「はぁ? 何バカなこと言ってんだよ!」
最初はふざけて聞いていたトーブだが、最後にはつかみかかる勢いでレイに言った。
「すまん」
「すまんじゃねえよ。何だよそれ。そしていきなりすぎるだろ。えっ? 他に、他に方法はねえのかよ」
「……ない」
レイは契約条件に関しては、シエンナ騎士団を抜けることしか話さなかった。考え抜いて選んだ選択肢だった。
「レイ、そんな力いらねえだろ。そんな力があってもなくてもレイはレイだ。だからいらねえだろ。行くなよ!! 俺たちは俺たちのできること、精一杯やろうぜ、な」
「俺は…… 精一杯戦いたい。皆のために、この地のために。ラウドの森で、テト地区の戦闘で、力のないことを痛感しただろ。俺はもっと強くなりたい、もっと強く生きたい、皆んなを守れる力が欲しい……」
「レイは、もう十分強いじゃないか。十分だろ」
トーブは泣きそうな顔をしながらレイの胸ぐらをつかんだ。
アルマーマが、トーブの手に自分の手を添える。
「トーブ。レイは禁術の魔法使い。私が風の魔法使いで、トーブが炎の魔法使いであるように。レイは禁術メテオストライクの魔法使い。その力は彼の一部。きっと大切な。それを、奪うことは私たちにはできないわ」
トーブはレイを離すと後ろを向いた。
「俺は、……分かんねえ」
そう言って足速にその場を去った。
「トーブの気持ち。分かってあげてね」
「ああ」
「私もトーブと同じ様に思う気持ちもある。このあいだまでの私なら…… だけど、この前の戦いで力不足を情けないぐらい痛感したわ。お姉様みたいになりたければ、このままではダメ。私は本物の風の魔法使いになりたい。もっと上を目指したい。役に立ちたい」
「……」
「その思いはトーブも同じだけど。レイを始めみんなへの思い入れが強すぎるから。とくにレイへの思いは……」
「本当は何も言わずに出ていくつもりだった。だがトーブにだけは、どうしても伝えておきたくて…… あ、もちろんアルマーマ班長にも」
「いいわよ、気なんか使わなくて。さ、ひとまず今日の警備を終わらしましょう」
その日は口数少なく城壁外を見回った。シエンナ騎士の正装をして警備を行うのもあと3回かと思うと、寂しいものが込み上げてきた。アルマーマとの午前中の見回りが終わって戻ってくると、厩舎の前でトーブが真剣な面持ちで待っていた。




