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メテオストライク 9/17

「兄ちゃんセンスないよ」


 レイの腰ほどの背丈の子が発した最初の一言はそれだった。


「あっちの姉ちゃんの方が、まだいい。僕、果物好きだから」

「……」

「今どき、風車(かざぐるま)はないんじゃない。あれで、どうしろと?」


 そういうと、その子はレイをジロジロ見ながら周りをぐるりと回った。


「君は?」と発したレイの声を遮ってその子は話し始めた。

「人からは魔物と呼ばれてるよ。図書館では幽霊って思われてる様だけど。正確には魔を制するものであり、この地方で魔法の理を守るもの。そうそう、タートゥールって名前が一応あるけどね」

「タートゥール。俺は君を倒せばいいのか? とても倒す気にはなれないが……」

「倒す? 僕を? 人間ふぜいが? やってみれば」


 レイはブロードソードを抜くと、そろりそろりとタートゥールに切っ先を伸ばした。


「何やってるの?」

「いや、倒せというから……」


 タートゥールは差し出された切っ先をつまむと、軽々とレイを引き寄せ転ばせた。レイが慌てて立ち上がるとその手にブロードソードはなく、次の瞬間にはタートゥールの投げつけたブロードソードが地面に深々と突き刺さっていた。


「本気でやりなよ」


 タートゥールがあくびをしながら呟く。

 レイはブロードソードを引き抜き再び身構えたが、子供の格好のタートゥールにどうしても剣を振り抜こうという気になれなかった。


「じゃ、こっちから行くよ」


 タートゥールはそう言ったかと思うと、次の瞬間にはレイの懐に入っていた。フッとレイの体が浮き投げ飛ばされる。なんとか受身を取り頭部を守ったレイだったが、背中を派手に打ち付けた。


「どう? 本気になった?」 


 それを見てノアが素早くタートゥールに向かったが、「待て!!」というレイの鋭い声で動きを止める。レイは立ち上がると、ブロードソードを地面に突き立てた。そして、身につけていた鎧を外していく。


「何してんの?」

「倒せば封印を魔力の解いてもらえるのか?」

「さあね。……武器も防具も捨ててどうする気?」

「本気になったんだ」


 レイは全ての装備を外し身軽になると、素手でタートゥールに飛びかかった。タートゥールがサッと横にかわすのと一緒にレイも横に飛びタートゥールをつかむ。そのまま、押し倒そうとしたが、びくともしなかった。逆に押し返されバランスを崩す。しかし、その反動を殺さず腕をきめ引きつけることに成功すると、転ばすまではできなかったが、しっかり組み合う形になった。


「シエンナのレスリングだ」

「いい動きしてるね。それにいい力だよ。でも、僕の相手じゃない」

「知ってるか? 肩や背中や尻を地面に着けると負けだ」

「へぇ〜。じゃ、僕を一度でも倒せたら合格でいいや」


 レイは顔が真っ赤になる程、力を込めて相手を押した。その瞬間、ディックの声が聞こえた様な気がした。「レイ、力だけでいってもダメだ。相手のバランスをいかに崩すかだ」かつて、シエンナの広場でディックと訓練した日々が思い起こされる。「相手の重心を崩してから力を入れろ。こうやって、相手の重心を後ろに引かせた状態で、膝を抱え体をおこし肩を押し回転させろ」そう言ってレイに指導していたディック。


 レイは相手より長いリーチを活かし、タートゥールの頭を抱え込むようなヘッドプルをしかけた。いきなり力の方向が逆転したことで、さすがのタートゥールもわずかにバランスを崩す。レイはその隙を見逃さずタートゥールの膝を取り押した。


 一瞬、倒したかと見えたが、寸でのところでタートゥールは粘ると、そのままレイを放り投げた。激しく転がるレイ。


「いいとこ行ったね。でも無駄だってわかった?」

「いや、わずかでも通用するって分かった。それで十分だ」


 レイはすぐに起き上がり、再びタートゥールに飛びかかった。それから何度か押し倒せそうになる機会はあったが、最後の一押しが足りず転ばすまでには至らなかった。長い時間が過ぎ、レイは逆に何度も転ばされ、投げ飛ばされボロボロになった。


 ノアはそんなレイをじっと見ていた。レイが絶望していないことは、レイの顔を見て分かった。……何かを狙っている。


 レイはタートゥールと何度も同じ様に組合い体が上がるのを待っていた。レイはタートゥールの目の前から消える様に素早く下に潜り込むと、「ウォー」という雄叫びと共に

力の入った高速タックルをタートゥールに決めた。踏み込んだ前足に力を込め、相手の前足に胸を密着させ押し切った。


 二人がまるで何かに弾かれたかのうように吹っ飛び転がる。レイはそのまま大の字に寝転がり「やった!」と小さく呟いた。


「ちぇ、しょうがないなー。でも意外と楽しかったよ」

「俺も楽しかったよ。ありがとう。ハハハ」


 レイは寝転がったまま絞り出す様な声を出した。


「兄ちゃん。やっぱり魔法使いには向いてないよ。戦士だよどーーう見ても」

「……」


 レイは返す言葉がなく頭をかいた。自分でも分かっていた、頭を使うよりこうやって一心不乱に体を動かし戦うことの方が自分に合っていることは。なにか可笑しくなって、ハハっと笑いがこぼれた。


「じゃ、兄ちゃんの禁術はなに?」

「メテオストライクだ」

「ゲ、あいつ呼ぶの……」

「? お前が封印を解いてくれるのではないのか?」

「違うよ。僕は契約の魔物を呼んでくるだけ。最初に言ったでしょ。僕はこの地区で魔を制し魔法の理を守るもの。魔物を抑え込んでるだけだよ。しょうがない、メテオストライクの魔物を呼んでくるよ」

「おい、もしかして、もう一度戦う事になるのか?」


 レイは震える足で立ち上がった。


「大丈夫。契約を結ぶだけだから。でも、あいつはちょっと意地悪だから嫌なんだよな…… まあ、呼んでくるよ。少しまってて」




 丘の上の平原に切れ目ができ、タートゥールと一緒に姿を表したのは、王侯貴族を思わせる様な男だった。細身のコートには華やかな刺繍、カフスには高価なレースが、ウエストコートには金糸や銀糸、多彩な色糸が使われ特権階級を見せつける様な出立だった。そして、最もその男を印象受けたのが、顔や手は真っ赤で陽炎の様にゆらめいていたことだ。


 男は風景でも楽しむかのように、周りをみながらゆっくりとレイたちの方へ歩いてきた。年配とまではいかないが、刈り込まれた立派な髭と深い顔のシワがそれなりの年齢を感じさせた。男がにこやかにレイを見ておもむろに口を開く。


「お前がレイか? メテオストライクの封印を解きたいと?」

「そうだ」


 男はレイを見る目を細めて、舐める様に全身を見るとニヤリと笑った。


「よかろう」

「ありがとう」

「なーに、礼にはおよばん」


 男は軽く手を振って余裕の表情を見せた。


「それでは、お前の大事なものを差し出してもらおう」

「?」

「そんな簡単に封印が解かれると思ったか? 対価が必要だ、そういう契約なのさ」 

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