メテオストライク 4/17
手に取った本は大きく重かったが、表紙や背表紙は質素で飾り気がなく、金糸などで装飾さらた他の本に比べ見劣りするものがあった。それでもメテオストライクの文字と、著:ウィルの文字は輝いて見えた。
書庫の奥にはテーブルと椅子が4脚あった。レイは静かに椅子を引き座るとテーブルの上に書庫を乗せ、輝星石のペンダントを握りしめた。
……メテオストライクの事が、そしてウィルの事が何か分かるかもしれない。
レイの脳裏に様々な思い出が蘇る。
× × ×
暖炉の前。椅子に座っていた祖母。寄りかかっている小さなレイ。薪がパチパチとはぜ、部屋を暖かな空気が包み込んでいた。祖母は優しい顔でレイに伝説の魔法使いウィルの話をしている。
「南東からの災いクゲンダル近づく時、魔法使いウィル、空からの魔法使いて、民を救う。夜空の暗闇を希望の光に染め。その者ノースレオの地にあり」
「僕、ウィルのように強くなるよ。そしてみんなを救うんだ」
祖母は優しい顔でそっとレイを引き寄せ抱きしめた。
× × ×
教会。6歳になったレイが、祖母に連れられ司祭の前にたっていた。ステンドグラスの輝き目を奪われていたレイに司祭がにこやかに手をかざす。
「メ、メテオストライク」
司祭の表情が一変し震える声で告げる。
× × ×
魔法の施設で、皆から弾かれ一人たたずむレイ。他の子達をまね、何か出そうと頑張ってみるが、何もできず皆から笑われる。あるときは石を投げられ、ある時は他の魔法で追い立てられた。
施設の片隅で傷だらけになり泣いていると、その隣にフロンテそっと座る。黒髪のフロンテが、下からフワッと優しい風を吹かし、レイの顔を上げさせた。「待とうよ。一緒に」と笑いかけるフロンテ。
× × ×
10歳のレイ。ただ一人、亡くなった祖母の傍に座り込んでいた。「強く生きなさい」という祖母が残した言葉を心の奥に抱え込んだ。意味も捉える事ができず、それからずっと考えてきた。形見、輝星石のペンダントが光を放ち瞬いていた。
× × ×
独り身になったレイは、剣術の師匠アイウェルに育てられ鍛えられた。「力に溺れるな。そして力を恐るな。力を使いこなせ」師匠の言葉が木霊する。
× × ×
ラウドの森の小屋。暖炉の前でノアと二人。ノアは自分の両手を開いて見つめた。
「私は地獄に落ちるよ。でも、私が地獄にいると思うと少しは安心しない? 何があっても」
ノアが笑って見せた。
「レイには、いつか全てを話しておきたいと思ってた。レイになら、私も背中を預けられると思ったから」
「ノア ……ありがとう」
× × ×
冷えた手を吐息で温め、重い書物のページをめくる。数ページめくり、もう一度表紙を見直した。間違っていない。
だがそに書かれていたのはウィルの日常の出来事だった。日記だ。それが何十ページも続いている。少し流して読み、やっと出て来た魔法に関するページが「魚が食べたかったから魚を降らせたが岩の魚しか降らなかった。残念」と絵付きで書いてあった。
「メテオ関係ないじゃないか」
再び読み始めると、詠唱の仕方から、印の結び方、そしてご丁寧に住民への注意喚起の方法や魚の岩の飾り方まで書かれていた。何だか張り詰めていた気が一気に抜けた気がした。
でも良かった。ウィルは嘘つきではなかったし、大量虐殺者でもなかった。大魔法使いだったかどうかは疑問だけど。レイは、それからしばらくウィルの平和な日記を読み漁った。
かなりの時間が経った時、不意にギィーと扉が開く音がした。ハッと周りを見渡したが隠れられる場所はどこにもなかった。第一、ランプの火をいまさら消しても手遅れだ。それでも、さっと椅子から立ち上がり身構えた。誰だ? もしや例の幽霊? いや、馬鹿らしい、とすぐに否定し、近づいてくる静かな足音に全神経を集中させた。
やがて、本棚の間から現れたのはノアだった。
「合鍵、つくっちゃった」
と言いながら鍵を持ったノアが笑顔で入ってくる。