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シエンナ騎士団 7 / 13

 試験官グレーンがレイとフードをかぶった男の間に立ち宣言した。


「それではこれから、トーブ対レイの試合を始める」


 レイはフーと息を吐き離れて構え、間合いを取った。これまでトーブという名のフードの男の戦い方はほとんど見る余裕がなかった。相手にも恵まれていたのか、瞬時に片がついていた様だ。

 さて、どう攻めるか。レイがそう考えた時、「始め!」とグレーンの声が上がった。


 瞬間、トーブのブロードソードの一撃が鞭のしなる様に飛んできた。リーチが長く早い攻撃ではあったが、レイは冷静に盾を使って攻撃を受けた。そして素早く間合いを詰めてこちらの斬撃を打ち込む。その斬撃はトーブのフードを掠めはしたものの寸でのところでかわされた。続けて連撃を放ちたいところであったが、ノアの言った「魔法を使うぞ」という言葉が引っかかり、一度間合いを取った。


 「チッ」とトーブの舌打ちする音が聞こえた。トーブは再びリーチの長いブロードソードの一撃を放って来た。先ほどと同じだ。レイはまた盾で攻撃を受け止め間合いを詰めた。だが今度はトーブ自身も間合いを詰めていた。ぶつかるほどの距離になった所にトーブの左手が伸びて来る。


 ……こっちが本命か!


 レイが体を捻る。

 次の瞬間トーブの左手から爆炎が立ち上った。

 広間の中に「おおー」という騒めきが起きた。

 レイは転げる様に回転して間合いを取った。袖口が焦げはしたが直撃は免れた。

 トーブは左手を上に向けその上で炎を操っていた。そして次の瞬間、その手をレイに向けると直線上の炎がレイを襲って来た。レイは盾を構えると同時にサッと飛び退きその火炎放射を避けた。


「クソッ、すばしっこい奴だ。できれば最後の試合まで取っておきたかったんだがな」


 トーブが左手で炎を転がしながら呟いた。


「おい、魔法はいいのかよ」


 足の甲に包帯を巻いた巨軀の男が脇から声をかけた。


「構わん。武器の制限以外ルール無用だ」


 審査官グレーンが大きな声で答えた。


 周りで色んな騒めきが起きていた「魔法なんて初めて見たぜ」「あいつとはやりたくねえな」と言う声、「水だ水をもってこい」と言う老騎士ヴィベールの声、「うまいうまい」という声。

 ? レイがチラリと目をやると、腹に包帯を巻いたノアがバナナ貪る様に頬張っていた。レイの目線に気がついたのか、ノアはサムズアップをし「グッドラック」と呟いた。隣には巨軀の男がおりバナナの房を抱えながら、やはりバナナを頬張っていた。


 フッと笑いが込み上げて来たレイに向かって、トーブが再び火炎放射を浴びせかける。レイは走って避けながら「武器の変更はありか?」と問いかけた。「構わん。武器の制限以外ルール無用だ」とグレーンが再び答える。


 それを聞いて武器を置いてある場所へ走るレイ。トーブは「させるかよ」と吠えると右手のブロードソードを捨て、右手からも火炎放射を出し壁に立てかけられた武器に向けた。レイは自分に向けられた炎が一瞬緩んだ隙に、踵を返すと武器ではなく盾を置いてある場所にまで移動した、そして、ブロードソードと中型の盾を捨て大型の盾を手に取った。


 そのまま周囲を高速で駆け抜けるレイ。周囲にも飛来する火の粉にどよめきが起きる。「なんとかしろグレーン」という老騎士ヴィベールに、「構わん。ルール無用」と返すグレーン。


「おい、いつかあいつ焼け焦げちまうんじゃないのか?」


 と巨軀の男がバナナを食べながら呟いた。


「いや、あれでいい」


 とノアも2本目のバナナを食べ終わり返した。


「私の時と一緒だ。あのままあのトーブとか言う男の精神力を削ればすぐに魔法は使えなくなる。それよりバナナもう一本くれ」


 ノアは巨軀の男から3本目のバナナを受け取った。




 縦横無尽に走り炎をかわすレイに、トーブの炎の威力が弱くなり届かなくなって来た。


 ……そろそろか。


 レイは少しずつ間合いを詰め、トーブの炎が一瞬消えた隙に高速の寄せを見せ飛びかかった。

 「舐めるなー」とトーブが吠えて特大の炎が沸き起こる。

 レイは大きな盾の後ろに身を隠し、放たれた炎もろともトーブにぶつかった。ゴンと派手な音を立て自身の炎を浴びながら倒れたトーブ。レイは大きな盾越しにその上に覆いかぶさり自由を奪った。一瞬の後、トーブは諦めたのか、その頭を力なく落とした。


「勝者、レイ」


 レイは呼吸を整え立ち上がった。予想以上に疲れていた。


「これから最後の試合を前に10分の休憩を取る。平等に試合をしてもらうためだ。両者しばらく自由に休め」


 レイは入り口の近くに腰掛けた。足に力を入れなければ立ち上がれないほど疲れていた。10分の休憩じゃとてもどうこうなる疲れじゃないな。10分の気休めか。と思うとフッと笑いが込み上げて来た。


 そんなレイの脇にノアがやって来た。後ろには、びっこを引きながらやって来た巨軀の男もいる。


「グッドラック、通じたな」


 ノアはそう言ってバナナを見せた。

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