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禁術の魔法 16/16

 一度、両陣営の均衡が崩れると、あとは勝負にならなかった。逃げ惑うトゥーバル兵を、シエンナ、トラヴィスの両騎士、そして傭兵たちが追い立て、戦場には一方的な風が吹いた。トゥーバルは魔法使いの活躍により、将軍を初め本陣を無傷で退却させることができたが、2万にも及ぶ傭兵部隊は壊滅的な損害を受け、そのまま国境近くまで遁走することとなった。


 静かに動いていたコウナの隠密部隊が、しっかりと敵の兵站を潰したことも大きく、トゥーバルに盛り返す隙を与えなかった。




 それから1週間ほどの時間が経った。レイたちは小村マノに残り戦争の後片付けに追われていた。森の近くに穴を掘り、亡くなったトゥーバル兵を埋葬する。敵とはいえ、自分と年端も変わらぬ者もいて、目を背けたくなる様な作業だった。


 情勢が変わっていたら、ここに埋葬されいたのは彼ではなく自分。そして、ノア、トーブ、アルマーマといった仲間だっただろう。とくに最前線にいたランス、ビルバ、モーラなどは紙一重のところに立っていたのだ。レイはやりきれぬ思いを抱き、穴の中に並べられたトゥーバル兵の亡骸を眺めていた。


「どうしたレイ。こっちは終わるぞ」


 トーブが泥で汚れた顔をさらに汚れた手で拭きながらやってくる。


「ああ、こっちも終わりだ。埋めよう」


 レイがトーブを促して穴に土をかけていく。


「まだ子供だな」トーブが呟いた。

「何故、こんな……」

「こいつらが攻めてきたんだ。しょうがあるまい。殺るか、殺られるかだ」

「……」

「……だが、胸が痛いな」


 レイは無心で土をかけた。ここで死んだ傭兵の中に侵略を望むものがどれほどいただろうか? 多分、下っ端の傭兵はだれもこの戦争を望んでなかっただろうに。


 ふと振り向いた平野には穏やかな風が吹き、まるでここで殺し合いなどなかったかの様な鮮やかな光を見せていた。ここで戦争が行われた実感が、すでに風化し風に飛ばされて消えていく。


 なんとかできなかったのだろうか? あの戦いの起こる前の「どうにもならぬやるせなさ」と、終わった後の「どうにもできなかったやるせなさ」が、あの全てを吸い込み潰した一瞬から、絶えず噴き出してくる。


 なにができたのか? その答えは分からない。ただ、モンペリとグレーン、そしてそれを支えたセイセルーの禁術の魔法。それにより戦いの流れが代わり、自分は生かされた。仲間が生きている。


 レイは手のひらを握りしめた。禁術の魔法…… その力の大きさを改めて思い知った。戦の流れを変えるほどの力…… かつて伝説の魔法でノースレオウィルを救ったという、魔法使いウィルのことが頭をよぎる。禁術の魔法メテオストライク。それがあれば、救えただろうか? それは分からない。しかし、救ったと言われているウィルの事を今ほど強く知りたいと思ったことはなかった。そして、自分の中に潜むメテオストライクの力を。求め、知りたいと強く思った。


「俺はもっと魔法を修練するよ」


 唐突にトーブが言った。


「今回は皆を助けることできなかったけど。次は……」

「そうだな」

「ってな事言ったら、アルマーマ班長が、今回も盾になって役に立ったって言ってくれたんだぜ。どうよレイ。あれでなかなか良いところもあるんだぜ」

「フッ、そうか」


 トーブの嬉しそうな顔を見て、ほっとする。


「まあ今回は、逆風だったから狙われた矢に威力がなかったけど。あれが風にのってたら盾が弾き飛ばされるぐらいの威力だったらしい」

「危なかった。正直、盾持ちを甘く見ていた」

「俺も…… まあ、それはそれで良かったんだが。次はもっと活躍できるように力をつけるよ。俺も魔法部隊の一員になれるよう」


 レイはトーブに笑顔を返したものの、なんて答えれば良いか分からなかった。禁術メテオストライクの事をトーブに話して良いものだろうか? トーブを信頼してないわけではない。ただ、公にすることに抵抗があった。


 それでも、トーブの気持ちも自分と同じ、強くなろうという気持ちが分かり嬉しかった。


「早く帰ろうぜ。レイ」

「ああ。そうだな」

「アルマーマ班長とノアの療養ももう良いんだろ。みんなで飯でも食べようぜ」

「ああ、迷いは、食って、寝て、忘れろ。だ。帰ってみんなで食おう」

「おお!」


 ノアとアルマーマは、今回の戦いで憔悴し二日ほど目が覚めなかった。生きた心地のしない二日間だった。目を覚ました時に、トーブと手をとり合って泣いたのを思い出した。それから二人ともなんとか順調に回復はしていたが、自分の無力さがいたたまれなかった。


 レイは覚悟を決めた。

 今まで、知りたいと思いながらも、その残虐性から絶えずためらいを持っていたメテオストライクの魔法。そしてずっと心に突き刺さっていたラクフの『レイ、お前も俺と同じだ力が欲しいだろ。お前も力を取れ!』と言う問いかけ。


 メテオストライクの事を知りたいと思いながら、絶えずそのことがレイの気持ちの重しになっていた。


 しかし今、魔法使いウィルがノースレオウィルを救った様に。その可能性がわずかでもあるならば、全てをかけて力を求めようと思った。自分に可能性があるならば…… 改めてレイは強い覚悟を決めた。



第5章 メテオストライクに続く


:::::::::::::::::::

第4章 「禁術の魔法」Fin


第1部レイは、第5章まで予定しております。

第1章 シエンナ騎士団 (13ページ)

第2章 訓練の日々   (23ページ)

第3章 特別任務    (15ページ)

第4章 禁術の魔法   (16ページ)

第5章 メテオストライク(17ページ)

エピローグ1

エピローグ2


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