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禁術の魔法 15/16

 トラヴィスの騎士が切り込み傭兵部隊が突撃したトゥーバル陣の側面は崩壊し、その勢力はドランド将軍が控える本陣にまで到達しようとしていた。


「ええい、何をやっとる。わしが出るぞ、近衛兵続け!」

「おやめくださいドランド将軍」

「オレーヌ……心配するな、蹴散らしてやるわ」

「ドランド将軍の武勇は百も承知。しかし万が一という事もございましょう。もし怪我でもなさいましたら、それこそ軍の立て直しもできなくなります。ここは一度引いて立て直しましょう」

「しかし、どの道だれかがトラヴィスを止めねばなるまい」

「アルコン、おるか、アルコン」


 サッと軽装の兵士がオレーヌ卿の脇に馬をつけ、飛び降りひざまずいた。身のこなしが軽く機敏に動く姿はまるで軽業師の様でもあった。


「お呼びでしょうか」

「アルコン、お主がトラヴィスとの間に壁を作れ」

「ハッ」


 と返事をするやいなや、アルコンと呼ばれた青年は馬に飛び乗り走り去った。すぐに、トラヴィスの騎士と交戦している戦場に炎の壁が出現し、その炎がラヴィスの騎士と傭兵部隊を襲う。


「シエンナとの前線は向かい風ですが、こちら側は逆に追い風です。これを使わぬ手はありますまい」


 オレーヌが満足そうに述べた。


「エステナ、風の魔法使いは見つけたか?」


 オレーヌの脇に青いプランド(ガウン式衣服)を着た男が馬をつけた。


「見つけましたがね。前線に、風の女神パレルーマ、炎の竜神カディフ、そして後方遠いところに、やっかいな奴が一人」

「狙えるか?」

「向かい風ですよ。私たち風使いは、風には逆らえませんよ」

「ごたくは良い。狙えるかと聞いているのだ」

「やれと言われれば、やりますがね。やってみないと……」

「やれ!」


 オレーヌが命じるとともに、エステナは背中に背負った大きな弓と外し、斜め上、かなり上方に弓を構え矢をつがえた。風の魔法を静かに詠唱しながら狙いを定める。「切り裂けー!」と放った弓矢は凄い速さで白い閃光を残し青空に消えていった。




 トーブの視界にキラリと光る白線が見えた。「来た!」と思った次の瞬間には、構えていた盾にブスッと矢が突き刺さった。この逆風のなか、はるか遠方から弓矢が飛んでくるなど信じられなかった。が、届いたのだ。レイと共に盾を持つ手に力が入った。2本3本と矢が突き刺さる。ここを、アルマーマを狙っているのが明らかだった。


「どこだ? どこから狙っている?」

「顔を出すなトーブ。危ない!」


 レイが注意する。


「敵陣の後ろから来ているわ。その矢には風の魔法がかけられている」


 アルマーマが片膝ついて、一呼吸つきながら答えた。ノアがすぐの脇を支える。


「敵陣の後ろだって、あ、あんな所から……」

「その矢に風のご加護が吹き込まれている。向かい風でも風を切り裂いて飛んでくるの」


 レイの盾にもブスッと矢が突き刺さった。




 エステナは矢を放つのをやめた。


「ダメですね。届きはしましたが、さすがにこの距離だと威力が出ない。しっかり敵の盾部隊に防がれました」

「なんとかせよエステナ!」


 オレーヌが爪を噛みながら叱責した。


「なんとかと申されましても……」


 その時、エステナがサッと右手を振るった。次の瞬間、オレーヌの顔面横を目に見えぬほどのスピードで矢が駆け抜けていく。「ヒッ」とオレーヌが馬の背に倒れ込み身を隠す。


「あ、風の女神に見つかっちゃいましたね。こっち狙ってますよ」

「た、退却、退却」


 ドランド将軍が、オレーヌの頭を剣の鞘で小突く。


「お前が言うでない」


 次の瞬間、ドランド将軍の脇を矢が駆け抜けていく。エステナが前線で矢を構えるパレルーマと対峙する様に立ち、飛んでくる矢を逸らそうと風を起こしていたが、状況が芳しくないのは一眼でわかった。


「風向きが悪いのです。こちらから打つ矢と桁違いの威力が…… せめて1時間前なら、まだ風が……」


 そう言っている間にも、矢が次々と飛んでくる。


「ムムム……仕方ない。一度、引くぞ!」


 怒気を孕んだドランド将軍の一言。

 その言葉を霧散させるかのように、パレルーマの放った矢がドランド将軍の眼前を切り裂いていく。


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