禁術の魔法 14/16
「我はフェンバッハ。トラヴィスの騎士! 敵を討ち取れ! いざ、将軍は我と勝負せよ!!」
派手な紋章入りのマントをそれぞれに纏ったトラヴィスの騎士が、トゥーバル兵の側面から襲い掛かった。後方に広がる森のなかからは、三千の傭兵たちが続いてくる。
不意の攻撃を受け、崩れていくトゥーバル兵の陣形。すぐに後方に控えていた騎兵を向かわせたが、勢いに乗ったトラヴィスの進撃を止めることはできなかった。
「ええい。あいつらは退却したのではないのか?」
ドランド将軍が、こっそり逃げようとしていたオレーヌ卿を怒鳴りつけた。
「……臆病者の馬鹿どもが何故」
オレーヌ卿はトラヴィスの騎士たちを苦々しい目で見つめ、キリキリと歯を軋ませた。そんなオレーヌ卿の横に、ヒュッと一本の矢が飛んでくる。「ヒッ」とバランスを崩し、馬から落ちそうになるオレーヌ卿。
「オレーヌ下がっておれ」そう言うとドランド将軍が馬上でロングソードを振り上げた。「止めよ! 後方の大隊はトラヴィスの騎士たちにあてよ。急げ!!」
シエンナ騎士団とトゥーバル兵の間では激しいパイク戦が繰り広げられていた。炎の壁により、前線が崩壊混乱していたトゥーバル兵ではあったが、その物量にものを言わせ、シエンナ騎士団の壁に圧力をかけ続けていた。
風の魔法を使っていた老翁の騎士カディフが、トラヴィスの騎士達の攻撃を見て大きく両手を振り上げた。
「もう少し耐えろ! トラヴィスが側面よりトゥーバルを崩しにかかっておる。耐えるんじゃ」
そう言うと、右手に風を、左手に炎を孕み、轟音とともに掛け合わせると炎の竜巻を生み出しトゥーバル兵に向かって投げつけた。それまで前線が崩れようとも、後方から絶えず圧力をかけていたトゥーバル兵。その後方にいきなり攻撃が浴びせられ、新たな悲鳴と混乱が沸き起こった。
レイはアルマーマの前で盾を構え、弓矢などの攻撃に備えていた。幸い、今の所この場所まで矢が飛んでくることはなかったが、いつシエンナの壁が崩れてもおかしくない状況なのを見ながら歯痒い思いをしていた。
戦場ではモンペリ、グレーン、そしてセイセルーの禁術の魔法が、風向きを戦の流れを変えた。皆が必死にシエンナの壁となり、トゥーバルの進行を阻み、カディフの放つ炎の竜巻が敵を襲うのを見ていた。アルマーマは疲労困憊で今にも倒れそうだ。
トーブが前面の警備を緩め、アルマーマを支えようとした。
「トーブは前面を、こっちは私が支えるから」
ノアが後ろからアルマーマを支え檄を飛ばす。ノアはそのまま一呼吸おくと静かに目を閉じ、アルマーマの体に手を平をつけた。レイはラウドの森でノアの言っていたことを思い出した。「身を削って魔力を回復させる魔法。知ってる? お母さんは自分の精神力を削り、相手の魔力を回復させる、そんな変な魔法を持ってたんだ。ある戦争でその力を酷使させられ死んじゃったけど」ノアは悲しそうにそう話していた。
アルマーマが少し盛り返した様に魔法を使う。ノアが魔法を使っているのは明らかだった。
「レイ、レイも前面をしっかり守って」
ノアのその言葉にハッとし前面に注意を向けた。今の自分に出来ることをしっかりしなくては。