禁術の魔法 12/16
モンペリがロングソードを抜いて中央にでた。それを見たダイダスが鎖をジャラジャラと鳴らして一歩前に出ようとした時、鼻先をナイフが掠めていった。
「待て、次は俺だ」
ザムと呼ばれていた男がダイダスの動きを制す。
「ダイダス、お前はあの男をやれ」
そう言って障壁の上部で待機しているセイセルーを指差した。
「あいつ、あんな上にいたら鎖が届かねえじゃねえか」
「知るか」
「そっちの偉そうな騎士の方を俺が……」
次の瞬間、カマイタチの様な風をはらんだナイフが飛び、ダイダスの頬に赤い線を引いた。すぐにスーッと血の滴が落ちる。
「動くな、次は当てるぞ」
ザムはそう言い残すと中央へと移動した。
「俺は本当はシエンナの諜報部、いやシエンナでは隠密と呼ぶのか、そいつらと戦いたかったんだがな。特に死の羽をを使うナイフ使いとな。俺のナイフの方が上だと分からせてやりたがったが……」
ザムはそこまで言うと、ナイフをモンペリに矢継ぎ早に投げた。モンペリがロングソードの刃で的確にナイフを弾き、カッ、カッ、カッと鋭い音が響く。
「挨拶がわりだ。良かったぜ動けそうなやつで、少しは楽しめそうだな」
ザムがナイフを何本も指の間に挟んだ手を見せながら言った。
モンペリは、チラリと上に位置するセイセルーに目を向けたが、すぐに一呼吸おいてザムに向き直り「つまらん奴だな」と呟いた。
「お前を殺す。恩赦がかかってんだ」
「つまらん理由だ」
「これ以上の理由があるか。それに比べかわいそうに、国王のためかい? それとも領主か? 主人のために命を投げ出すんだろ、騎士ってのは」
「私は殺されもしないし、国王のためにここに立っているのではない。私はシエンナの騎士、この地を守るためにここにいる」
「きれいなツラは見飽きたぜ。死ぬ前にもそう言ってられるかな。本性暴いてやるよ」
ザムが何十本ものナイフを次々と投げていく、唸る風を孕んだ刃がモンペリを襲う。素早く距離をとりながらロングソードでナイフを打ち払っていくモンペリ。右に左に素早く残像を残す様な動きで、的を絞らせない様に避けていく。
ザムがモンペリの逃げ場を消す様に、横一列にナイフを投げつける。今までと違い刃が360度回転する様に投げられたナイフは、モンペリのロングソードに当たると方向を変え鋭く体に向かってきた。しかしモンペリは、その攻撃も冷静に体を躱し軽く避けた。
「もう、終わりか?」
「これからだ!」
ザムはナイフを乱れ打ち、さらに回転するナイフと直進するナイフを織り混ぜ緩急をつけた。モンペリは素早く後退すると、障壁ぎわを素早く駆け抜けた。ザムのナイフがモンペリの進路を塞ぐ様に降り注ぐ。やがてザムがニヤリと口角をあげた。
「ここだ!」
今までで一番激しく多量のナイフをなげつけた。モンペリの動きが一瞬止まる。背後にはうずくまり佇むグレーンがいたのだ。唸りをあげる剣さばきで、ナイフを次々と落とすモンペリであったが、1本のナイフが左手につき刺さった。
「当たりだ!バカめ」
「……」
モンペリは障壁の上部にいるセイセルーを見上げ、やがてニヤリと笑った。
「風がきた。終わりにしよう」
「? 気でも狂ったか? なあ、いい事を教えといてやろう。シエンナには強力な毒があるだろ。そのナイフにもな、ハハ、安心しな毒は塗ってねえよ。だがな、強力な睡眠薬が塗ってあるのさ。毒でなんて殺させねえ、いたぶってやる。ほら、早く寝ろ」
「……」
モンペリの足元が微かによろめいた。
「やはり、お前はつまらん奴だ」
モンペリは左手のナイフを抜いて投げつけると、姿を消すが如く素早く間合いを詰めた。ザムが慌てて投げたナイフを躱し、障壁に足をかけ回転しながらザムの死角に入った。
「クソッ、どこだ?」
ザムがモンペリを探そうとした次の瞬間、ザムはすでに地面に薙ぎ倒されていた。何が起こったか分からないザムには、もうモンペリの姿を見つけ出すことはできず、音が消え目の前が暗くなっていった。