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禁術の魔法 10/16

 レイ達は信じられない光景を見て不思議な気持ちになっていた。


 シエンナ騎士団の作り出す壁とトゥーバル兵がぶつかる直前で止まり。お互いのパイクが届くか届かないかの間合いで見合っていた。号令が一つかかれば激しい激突が起こるだろう。そんな緊迫感のなか、中央に薄く輝きポッカリと空いた空間があり、そして、その上にモンペリとグレーンが浮いているように見えた。


「どう言う事だよ、レイ」

 

 トーブが抱えている盾を落とした。


「セイセルー様の禁術の魔法よ」アルマーマが答える。

「凄い!」ノアが発す。「あれだけの空間を維持するのに、一体どれだけの魔力を使うのか。どれだけ大変か……」

「禁術とされる魔法はそれ一つで戦局をも大きく変えてしまう力があるわ。今までは王の護衛などでしか見た事なかったけど…… 確かに、凄い」


 やがて、モンペリとグレーンが下に降りるのが見てとれた。そしてトゥーバル側から3人の兵士がぽっかり空いた空間に入っていく。


  ×  ×   ×


 セイセルーが作りだした領域に、トゥーバル側から3人の兵士が入ってくる。先頭にはドランドの護衛を勤めていた近衛兵のバゼル。鎧の胸当てはぴかぴかに磨かれ、兜には燃えるような羽を始め煌びやかな装飾が施されていた。体格が良く堂々とした歩き方に威厳がある。一方、バゼルの後ろについて入ってきた二人は、チュニックの上に薄い胸当てがついた軽装な鎧。動きやすそうだが、いかにも間に合わせの傭兵といった格好だった。


「バゼルの旦那、俺はこの中でやるのは反対だね。何か罠があるかもしれねえ。わざわざ相手の罠に乗るこたあねえだろ」

「……」バゼルは言葉なく後ろの男を睨んだ。

「いや、バゼルの旦那がいいんなら。文句はありませんがね」


 やや背が低いが、バゼルに劣らぬ筋肉をつけた男が言った。背中の筋肉が盛り上がってるのか丸いのか、頭が肩よりさがり、上目遣いに周りを見渡すその姿には異様なものがあった。


 もう一人の男は腕を組み無口に佇んでいた。二人より細身で引き締まった体をしている。端正な顔立ちだったが、顔の片方が潰れ黒い眼帯をつけていた。


「我はトゥーバル近衛兵バゼル。トゥーバルを代表して試合に挑む。先ほども申したように将軍は3対3を望まれている。そちらで構わんな」

「構わん」


 モンペリの答えに、セイセルーが「やれやれ」とため息をつく。


「武器は好きな武器を使わせてもらうぞ」バゼルが言う。

「好きにしろ」

「最後に、この領域で正々堂々勝負を行うことを誓うか?」

「フッ、トゥーバルの兵士からそんな言葉が出てくるとはな。……誓おう」

「では、この場所で試合を行う」

「こちらの魔法使い以外は外に出て戦っても構わんが」

「いや、正々堂々勝負がしたい。外では何が起こるかわからん」


 バゼルは障壁の周りに群がるトゥバールの兵を見渡した。


「……面白いやつだ。お前に似ている」


 モンペリがグレーンに顔を向ける。


「ええ、是非手合わせ願いたい」


 グレーンが腰の大剣に手をかけた。


「これを取らせてもらいたい」


 バゼルが障壁側まで戻り、外に兵士達が持ってきたものを指差した。セイセルーが障壁に穴を開けると、バゼルの後ろにいた二人の兵士がそれぞれ、渡されたものを受け取った。


 背の丸い男は、鎧を外すと黒いロープのような鎖を体に巻きつけ始めた。まるで黒蛇が肩の上を蠢いているかのように見える気味の悪い姿となった。細身の男は腰に革製のナイフベルトをつけた。普通のナイフベルトと違って、何十本ものナイフが付いていた。 


 フッと隙を見て、背の丸い男から鎖が投げられた、それは凄い勢いで地を這いセイセルーの元へと迫る。サッとかわすセイセルーであったが、鎖はその場で蛇が頭を持ち上げるが如く、跳ね上がり顎を掠めた。「クッ」と声がもれよろめくセイセルー。


「やめぬかダイダス!!」


 バゼルの一喝が皆の動きを止める。


「……」

「ザムも動くな」


  ザムと呼ばれた男はナイフにかけていた手を止めた。


「正々堂々だ。まずは私が行く。二人は手を出すな」


 バゼルがツーハンドソードを抜き中央に歩いた。ザムがチッと舌打ちをして後ろに下がる。ダイダスも苦々しい顔をしながら鎖を戻し後ろに引いた。

 

 グレーンがツーハンドソード抜き軽く振る。


「あいつとは面白い戦いができそうだ」


 中央に向かうグレーンから並々ならぬ覇気と共に喜びが感じられた。それは中央で待つバゼルも同じであった。

 

「私はシエンナの騎士グレーン。戦いに挑む貴公の勇気を讃えよう」

「私はバゼルだ。シエンナに恨みもなければ、興味もない。ただ、この場で、全力の出せる戦いを期待している」


 互いに大剣を構えて間合いを取った。

 二人の騎士には国も所属も、そして生も死さえも関係なく、ただ、目の前の強敵と全力で戦える喜びだけがあった。


 二つの気迫がぶつかり合い見つめあう。その緊迫は周りをも飲み込み、セイセルーが作り出した空間を飛び越え、周りの兵士たちも黙り込み固唾の飲んで見守った。


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