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禁術の魔法 3/16

 白石で作られた会議室の壁は明るく、部屋には陽光が降り注ぎ、暖炉をつけずとも暖かい空気で満たされていた。中には15名ほどの騎士がいて、中央の円卓に火除のアームカバーを付けた年配の騎士が6名座っている。中には背中の曲がった老翁の騎士もいた。


 パレルーマに連れられ中に入ると、「アルマーマ、それにトーブか?」と老翁の騎士が声をかけた。


「アルマーマ達の班は援護に入ってもらう……そちらに行きなさい」


 パレルーマが差した方向には、見知った顔の騎士が何名かいた。


「シーネス班長!」とレイ。

「いや、いまはもう君たちの班長じゃないがね」


 短髪の髪をかきながらシーネスが笑った。レイとトーブがシエンナで壁外警備をしていた時の最初の班長だ。面倒見が良く、いろいろ詳しく教えてくれたのを思い出した。その笑顔を見て心がホッとする。


「シーネスは、こいつらを知っているのか?」

「レイとトーブだけですが」

「では、あとでよく役割を説明してやってくれ。こいつらは別働隊で最前線には立たせるな後ろだけだ」

「え、前線で」とアルマーマが言おうとしたが、

「後ろだけだ!」と強い口調でパレルーマが制した。

「……」


 パレルーマは叱るような目でアルマーマを見ながら空いている席の一つについた。


 それから状況の説明が行われた。

 現在トゥーバル王国2万の兵に対し、シエンナの騎士千強、トラヴィス騎士団が少しと、連れてきた傭兵部隊が3千。戦力差は大きく、何とか善戦しながらもイーリアの南まで進軍を許してしまった。しかし小村マノの軍事拠点を何とか死守したい。そのための体制づくりが今行われている。


 そして最後に騒めきが起きた。


「中央からの援軍はこない! 今朝通達があった」

「何ですと」


 老翁の騎士がテーブルに身を乗り上げた。


「ロヴァンヌ王国は今、西で戦争をしている。ラン・サイユ王子の始めた身勝手な戦争だがな。そちらが膠着してて兵は送れんそうだ」


 パレルーマが冷静に話す。


「国王はテト地区を捨てる気か?」

「国王は送る気であったが、ラン・サイユが兵をよこさなかった。自分の始めた戦争をやめられんだ。自分の失態になるからな。暴君だ。トゥーバルも良くわかっておる。だから隙をついて攻めてきたのだ」

「……しかし、それでは一体どうしろと。援軍が来ぬ以上、その後、攻囲戦になっても絶望的じゃ」

「だから、小村マノの軍事拠点で食い止めるのだ」

「しかし、この軍勢差では…… 我らは無駄死にになりますぞ」

「それでもやらねばならぬのだ。我らはシエンナの騎士」


 皆、暗い気持ちになった。レイも背筋に冷たいものを感じ寒気がした。まだ幾許(いくばく)かの時間はある。今、ここの時間だけを取り出せば、暖かい部屋、やさしい日差し、皆が揃い、まだ十分な平和があるじゃないか。それが、明日、明後日には自分は死んでいるかもしれない。例え自分が生き残ったとしても、ここにいる多くの者が死ぬことになるだう。そんな悲劇の渦へと時はすこしづつ流れている。決して早くない流れだ、それなのに誰も僅かばかりもその流れに抗うこともできない。


 レイは部屋の中にいる皆の顔を見渡した。そして最後にトーブとノアのを見つめた。二人とも思い詰めた表情で固く口を結んでいた。


 誰か止めてくれ、この時間の流れを、この戦争を……

 パレルーマは皆の気持ちを汲み取ったのか、おもむろに懐から1通の伝令書を取り出した。


「セイセルー隊長からだ。そのまま読むぞ」

 

 一同が鎮まり、パレルーマの声に耳を傾けた。


「みんな元気ー? 今、急ぎでモンペリ殿とそっち戻ってるから、僕が戻るまで何とか粘ってね。あとは何とかするから、多分モンペリ殿が、ハハハハハ」

「……」

「失礼。最後の笑い声はないが、あの人になりきってたらつい笑ってしまった」


 パレルーマが伝令書をしまう。

 皆、黙り込んでしまった。そして、しばらくの静寂のあと老翁の騎士がポツリと言った。


「まあ、セイセルー隊長がそう言うならしょうがない」


 レイは驚いた。あんな手紙で納得している魔法部隊の面々にだ。レイには不安しかなかった。初めての戦場も、戦力差も、班長アルマーマも、そしてセイセルー隊長の言葉も、明日には死ぬかもしれないんだぞ、それをあんな手紙で納得するのか? レイにはわからなかった。


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