禁術の魔法 2/16
イーリアの城門は美しく城門の両側にはほっそりととした尖塔があった。その建築美は白幻都市という名に恥じぬ気品を備えていたが、シエンナのゴツく実践的な城壁に見慣れていたレイたちにとっては、いささか心もとないものがあった。
イーリアの中央に位置する、大広場に向かって大きな道を進んでいくが、通り過ぎる人の姿はなく、あったとしても皆暗い顔をし足速に通り過ぎて行った。
南のエスト領、南南東のトゥーバル王国、東のエクス=アン=ディーヌとの交易の拠点ともなり、『イーリアの市にくればどんなものでも揃う』と言われる活気はどこにもなく、広場にも市場ではなく簡易に造られた兵舎と野戦病棟があった。
レイたちが広場に着くと、兵舎から出迎えの者たちが出てくる。
「レイ、ノア、馬車の前にいるのはトーブか? 久しぶりだな。元気か?」
出迎えの中にビルバがいた。幾分痩せたようにも見え、グレーの髭が伸び頬の部分まで覆っていた。
「後ろの方にモーラとルッカ、ロッカもいる。ビルバこそ大丈夫か?」
「ああ、何とかな。何度か戦場に出たが、何とか耐えて生きてる」
「そうか」
「本当は『ようこそイーリアへ』と言って、活気ある市場とか見せてやりたかったんだが、ここ1週間ぐらいで、みんな他の街へ出て行ったり、閉じこもったり…… まあ、こんな感じさ」
とビルバが周りを見渡す。
「いよいよ敵が近くまで迫ってきたからな…… それでも皆の顔が見れると嬉しいもんだ」
そう言いながらビルバは荷馬車から荷物を降ろそうと馬車の後ろに回り幌馬車の後ろの布を開けた。
「キャッ!」
「失礼」
ビルバが慌てて閉める。
「少女が乗ってるぞ?」
「ああ、ええ、アルマーマ班長です」とレイが答える。
「?」
「自分とノアとトーブ、そしてアルマーマ班長」
「班長?」とビルバが驚く。
アルマーマが馬車からヨロっと降りてくる。
「私が班長で悪い?」
「あ、いえ。テト地区イーリア所属ビルバと申します」
「この中のものは降ろさなくていいわ。明日、最前線にすべて持って行くから」
「あ、はい」
アルマーマは、スタスタと広場を歩いて行く。
「あの? 野戦病院に何か御用でも?」
ビルバの声を聞いて戻ってくるアルマーマ。
「魔法部隊の皆はどこ?」
「ああ、だったらここからもう少し先に行くと、シエンナ騎士団の敷地あるので、その中です」
スタスタ歩いて行くアルマーマに、前の方にいたトーブが声をかけている。そして自分の馬の後ろにアルマーマを乗せた。
「今回の任務は魔法部隊の護衛と援護なんだ」とレイ。
「彼女ああ見えて風の魔法を使う魔法使いなんだ」とノア。
「トーブは彼女を守るための騎士になる。と入れ込んでるよ」
「そうか」
ビルバは顎髭を撫でながら呟き微笑んだ。
「しかし魔法使いとはいえ、あんな少女まで…… いや、そんなこと言ったらレイやノアに失礼か。すまん」
「いえ。彼女、一応自分達より上で、トーブと同い年」
「そ、そうか。どう見ても少女にしか見えんがな。ハハ。まあ、しかし今回は本当に総力戦だな」
そい言うとビルバは真顔になり、レイとノアを見た。
「俺も明日には前線に入る。援軍が来るまで耐えるぞ。死ぬなよ」
レイとノアがシエンナの敷地に入り厩舎に馬を止め戻ってくると、小さな中庭にトーブとアルマーマ、そして、初めて見る女騎士が立って話をしていた。アルマーマと同じ亜麻色の髪であったが、アルマーマより頭ひとつ分背が高く、シエンナの鎧が見事に馴染む鍛え抜かれた体格には風格があった。
「レイ、ノア、私のお姉様。魔法部隊副隊長のパレルーマ」
レイとノアが素早く敬礼をする。
「あなたが班長。妹のアルマーマをよろしく頼みますね。この子はわがままだから、大変でしょうけど」
「私が班長!」
とアルマーマが激しく抗議する。
「?」とパレルーマが驚く。
「レイ、ノア、トーブは私の部下! 今回は魔法部隊の護衛、援護で来たんだから」
「あなたが? 搬送だけじゃないの? ……今回の戦いは甘くないわよ」
「違うわよ。とうとう私が活躍する出番が来たのよ」
そこでパレルーマは大きく息をついた。
「……ま、仕方がない。会議があるから上に来なさい」
レイたちはアルマーマに続き建物の中に入って行った。
「私、不安しかない。大丈夫かな? 彼女」
ノアがレイに囁いた。




