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特別任務 13/15

 広場ではラクフの遺体から激しい炎が上がっていた。ローブの中に隠し持っていたギリシア火が引火したのか大きな爆発も起こしていた。レイは焦げたディックのそばで、その光景を黙って見ていた。ノアが二人の馬を連れてくる。


「行こう」とノアが声をかける。

「……」


 ノアはレイの肩にそっと手を置いた。


 レイはディックを自分のマントで包むと、長いストールを活用し背中に担ぎくくりつけた。硬直したディックの体がズシリとレイに覆いかぶさった。ノアに手伝ってもらいながら馬に乗り、静かに広場を後にした。


 広場の外に出ると、炎が燃え盛る広場とは打って変わって、凍えるような寒さが身を引き裂いた。軽傷ながらも火傷していた手の甲や左肩の辺りが痺れだす。空を見ると森の木々の間から満月が見えた。月明かりが暗い闇の道を静かに照らし出していた。


 疲労と寒さからレイは何度も馬から落ちそうになった。体は正直、もう言うことを聞いてくれそうになかった。それでも、馬の歩みを止めず、なんとか小屋までたどり着いた。転げ落ちるように馬から降りると、最後の力を振り絞りディックを担いで小屋に入った。


 ノアがすぐに毛布を探し出しレイに渡した。そして暖炉に火を灯す。ディックを下ろしたレイは暖炉の前で丸くなった。さっきまであれほど憎んでいた炎がありがたかった。


 やがて、多少体の動くようになったレイは外に出て水で顔をそして頭を洗った。怪物、そしてラクフの血がこびりついていた。寒さを忘れ一心不乱に洗い流そうとしたが、焦げた匂いが染み付いてとても落ちたように思えなかった。レイの胸から輝星石のペンダントがこぼれ落ち、黄檗(きはだ)色の淡い光をレイに投げかける。レイはそっとそのペンダントを握りしめ、空を見上げた。


「レイ、もう小屋に戻ろう」


 ノアがレイの背中に手を置いた。




 それからしばらくの間、二人は暖炉の前で毛布にくるまり固まっていた。もうすぐ夜が明けるだろう、それまでは少なくとも休もうと決めた。ノアはゴソゴソと動き皮袋から黒パンを取り出した。


「かじる? 黒パンだけど」

「いや」

「あ、そう」


 そう言いながらノアは黒パンをかじった。


「スープが欲しいな」とノアが呟く。

「……ノアは強いな」

「……別に」

「すまない、悪気はないんだ」

「……」


 レイは輝星石のペンダントを眺め呟いた。


「強く生きなさい」

「……」

「……その言葉の意味を探している」

「なにそれ?」


 とノアが黒パンをかじるのやめレイを見た。


「俺を育ててくれた祖母の最後の言葉だ」

「そんなの単純。強くなりゃいいんでしょ。鍛えて強く……十分強いよレイは」

「そうだろうか? ……強く生きる。剣の道で、俺は強く生きる…… だが人が死ぬのを見ると」


 ノアは大きく息を吸って吐くと話題を変える様に明るく言った。


「ねえ、そのペンダント見せてよ」


 レイが輝星石を掲げ見せる。


「綺麗だね」


 とノアが顔を近づけて来る。

 レイの顔がフッと緩む。輝星石の淡い光に照らされた彼女の顔にはまだ少女の面影が残っている。そんな事ノアに言ったらまた叩かれるから口には出さないが…… 歳こそ俺より上だが、しかしこんな少女が何故こんん所に。今更ながらに思ってしまう。


「私の顔も汚れてる?」

「いや」


 と言ってレイは顔を背けた。

 

「私はもっと小さい時に人を殺したことがある」

「……」

「だから、少しレイよりは慣れているのかもしれない」

「……そうか」


 しばらくして、ノアはジッと暖炉の火を見つめて話し始めた。


「私のお母さんはね魔法使いだった。変な魔法、魔法を使う力、私は魔力って呼んでるけど、身を削ってそれを回復させる魔法。知ってる? 魔法って無限じゃないんだ。使えば使うほど精神力を削って魔法の力に変えていく。お母さんは自分の精神力を削り、相手の魔力を回復させる、そんな変な魔法を持ってたんだ。ある戦争でその力を酷使させられ死んじゃったけど。だから私はお母さんにそんな風に魔法を使わせた魔法使いを恨んでいる。中央の魔法部隊を恨んでる」

「?」


 レイは戸惑いながらも黙ってノアの話を聞いた。


「私もその魔法を受け継いでいる。だからお母さんと共に施設に隔離させられていた。自由も自分もなく、ただ兵器として、物として…… だけど、そうやってお母さんが殺された時に、私も施設を出たんだ。警備の人たちを殺してね。そして、せっかく自由になれたのに、その気持ち悪さはずっと消えない。私にまとわりついている。ずっと、……今でもね」


 ノアは自分の両手を開いて見つめた。


「なんで、そんな話を?」

「私は地獄に落ちるよ。でも、私が地獄にいると思うと少しは安心しない? 何があっても」


 ノアが笑って見せた。


「……」

「レイには、いつか全てを話しておきたいと思ってた。レイになら、私も背中を預けられると思ったから」

「ノア ……ありがとう」

 

 暖炉の中で薪がはぜた。

 レイは輝星石を強く握りしめ息を吐いた。


「ノア、俺にも秘密がある。俺は小さい頃、司祭による魔法見極めで魔法を授かっていることを伝えられた。その魔法はメテオストライク」

「メテオストライク? それって」


 ノアが驚いた様に聞き返す。


「ああ。伝説の魔法さ。伝説すぎて使えない魔法だ」


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