特別任務 9/15
「まったく、またやってくれたな」
と言ってラクフが馬から降り近づいて来た。黒いローブの頭巾姿が闇に溶け込んで、その姿は闇の中で蠢いているよにも見えた。
「お前、ここで何してる」とディック。
「何って、何にも」
「あいつは武器商人のスパイだ。知ってるな?」
ディックが腰からブロードソードを抜き、後ろの3人に声をかけた。
「スパイだなんて。ただ普通にノースレオウィルまで商売に行ってただけさ。それにしても寒すぎだぜあの地は。ほら、このストール向こうで買ったんだ。似合ってるか?」
ラクフは首に巻いた、レイと同じような長いストールに手を置いて言った。レイは答える代わりに、急いで怪物の右肩に突き刺さったブロードソードを抜き取り構えた。ラクフはそれを見て立ち止まると「あーあ、どうしてくれるんだい? うちの商品を」と、語気を強めて言った。
ディックが足で化け物を蹴りつける。
「こいつが? 商品?」
「ああ、強かったろ。どうだい? シエンナ騎士団で購入しないかい? 少しまけてやるぜ」
「バカにするな!」
「フッ、ディック、お前に言ってもしょうがないか。それに、あのヴィベールの爺さんは古い人間だからな。シエンナに売れる目はねえか。……まったく、だから俺がシエンナの武器を強力に、そして最新鋭のものにしてやろうと思ってたのによ」
「バカにするな。なにが最新鋭だ」
ディックがブロードソードで怪物を差しながら言葉を返した。
「売るとこはいろいろあるんだ。今、トラヴィス領のテト地区に攻め入っているトゥーバル王国にでも売ってくるかな。あそこだったら喜んで買うんじゃあねえか。ハハ」
「ノースレオウィルに売ったのか?」
レイが怒りを表しながら、いつでも斬りかかれるように身構えた。
「ノースレオウィルでは断られたがな。でも、まだ目がねえわけじゃねえ。あそこには王国の中央勢力に反抗的な組織があるのは知ってるか? 併合をこころ良く思ってねえ奴らさ。今度はそこに行ってみるぜ。その前にその怪物の名をあげ、恐怖を轟かせようと思ったんだが。……ちょっとやりすぎたかな」
「そんなことのために……」
レイはそう呟くと地面に転がる怪物の亡骸を見た。
「ノースレオウィルの反抗勢力のやつらには、王国中央が境界線にて軍備を強化し、お前らを殲滅させようとしてると噂を流してるからな、うまく引っ掛かれば、フッフッフ」
レイがブロードソードを握りしめた。ディックが静かに指文字を送ってくる。(落ち着け、静かに周り回り込むんだ。捉えるぞ)。それを見てレイは、身構えながら静かに移動を始めた。ディックはレイと反対方向に移動していく。中央にはノアとトーブが陣取った。
ラクフはその動きを見て愉快そうに笑うと
「捕まえるつもりかい? バカな奴らだ。死ぬのはお前らさ、そう死んで償ってもらおう、お前らには恨みもあるし」
「お前、一人で何ができる? バカが」
ディック静かに横に展開しながら間合いを詰めた。
「バカはお前らだろ。あんなつまんえーところで一生終えるつもりか?」
「大事な場所だ。お前には分からんだろうがな」
「つまらん。つまらん! いつまでも古臭い戦いしやがって。俺が本当の戦いを見せてやるよ」
「イキがるな!」
ディックがレイに合図を送り、一気に間合いを詰めようとした時、
「死ね!!」
ラクフはそう叫ぶとローブの中から取り出した筒のようなものをディックに向けた。瞬間、その筒から巨大な爆炎が飛び出した。
ディックは予想外の攻撃に一瞬の遅れが生じた。ギリシア火か! と判断した時には、すでに目の前に爆炎の塊が迫っていた。




