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特別任務 8/15

 異形の怪物が轟く咆哮をあげながら両腕を振り上げた。その姿が山のようにそびえ立つ。レイは強烈な一撃が上方からくるのに身構えた。しかし次の瞬間、怪物は1歩下がると上げた腕で体を掻きむしった。


「ノア、続けて当てろ。3本すべて使っていい」


 すぐに怪物が、また1歩下がり暴れ回った。ディックがそれを見て死の羽(毒ナイフ)に手をかけた。そして、立ち上がった瞬間を狙って力の限りの強さでナイフを放った。直黒にのナイフは闇に紛れて見えなかったが、怪物の腹の辺りから血が噴したのを見て、当たったことが分かった。


「今だトーブ」


 怪物が1歩2歩とよろめき後ずさった所に、追い討ちをかけるようにトーブが炎を放った。怪物が転げるようにさらに後ろへと下がる。


「よし、毒が効いてるはずだ。長くはもつまい。だが、気は抜くな!」


 と声をかけ体勢を整え直した。


 怪物がだらしなく開けた口から(よだれ)がとめどなく流れていた。呼吸の乱れから毒の効いているのが見て取れる。しかし、その目は死んでなかった。赤くギョロッとした目が動き、脇の木の上にいるノアを見つけると、今度はそちらに向かって突撃を始めた。


 ノアは冷静に今度は怪物の右目にボウガンの狙いを定めた。静かな音を立て放たれた矢が見事に怪物の右目に突き刺ささった。しかし怪物は、森が震えるほどの咆哮を上げると、そのまま勢いを殺さず木に突っ込んできた。


 「あっ!」と言う間もなくノアの乗った木が激しく揺れた。ノアは幹に捕まり何とか耐えたものの、その後、木はミシッという強烈な音と共に倒れ始めた。


「あわわわ」と慌てふためくノア。


 レイは盾とマントを投げ捨てると、腰のブロードソードを抜いて怪物の元へ駆けた。


「バカヤロウ、盾を捨てるな」ディックがその後を追いかける。


 ノアは、なんとか倒れ込む木から飛び降り下敷きにならずに済んだものの。激しく転がり倒れた。「痛ー!!」と目線を上げた時、すでに怪物の右手は天を突き、すさまじい勢いで振り下ろされていた。反射的にボウガンを怪物の右手に向け打ったが、その矢で怯むような怪物ではなく。右手は容赦なく振り下ろされた。


 黒い怪物の影に視界がすべて覆い尽くされ絶望が脳裏に走る。間に合わない! と腕でガードしようとしたノアは、次の瞬間、猛烈な風が脇を掠めたかと思うと、目の前がパッと明るくなった。目を細めてみるとレイが目の前に立ち、トーブが怪物の後ろから炎を浴びせかけていた。


 怪物の右肩にはレイのブロードソードが深々と突き刺さり、先ほどの怪物の一撃をずらしたようだった。レイが死の羽(毒ナイフ)、直黒のナイフを抜くのが見えた。怪物はよろめくように、それでも、轟音唸る左手の一撃を振り下ろした。


 ノアの眼前からレイが消え、「レイ!」と3人の悲鳴のような声が森に響いた。怪物が振り下ろした一撃は空を切り、その腕は空虚に下で彷徨った。レイは、倒れかかる怪物の懐の中にいた。胸の位置にナイフを突き立て、血飛沫を浴びていた。倒れてくる怪物の胸に全力でナイフを突き立てていた。


 怪物が口から鮮血を噴き出し最後の咆哮をあげた。それは、何とも弱々しく悲鳴のような咆哮だった。その最後の咆哮と共に、異形の怪物はドサリと崩れ落ちた。

 

 

 レイは、自分で自分の動きを正確には覚えていなかった。怪物の右肩にブロードソードを突き立て怪物の一撃をそらした後は、ただノアを助ける一心だった。何の迷いもなく体が淀みなく動き、気がつくと怪物の胸にナイフを突き立てていた。


 ハァハァと息を切らす、レイの前に皆が集まって来た。


「大丈夫か? レイ」


 ディックがレイを抱えるようにして支えた。

 倒れた怪物の背中はトーブの炎で焼け焦げ、何とも言えない異臭を放っていた。その脇でレイを中心に皆が集まり無事を確認した。皆、満身創痍ではあったが、命に関わるような大きな怪我はなく安堵の息をついた。……終わった。怪物を見下ろしながら、皆がそう思っていた。

 

 しかし次の瞬間、木々の揺れる音が聞こえ緊張が走った。それは決して大きな音ではなかったが、何かが森の中を移動する音だと分かった。4人が警戒をする。まだ、他にもこの異形の怪物がいるのではないかと思ったからだ。


「あそこだ!」ノアが指差した方を見ると、森の木立がガサガサと揺れ何かがゆっくり出て来た。木立の中から現れたのは馬のように見え、上には黒いローブに頭巾を被った男。肩の周りには長く細い帯の様なストールを何重にも巻いている。そして、ゆっくり近づいてくるにしたがって、その姿がはっきりして来た。


「お前!」レイが叫んだ。

「レイ? ほう、誰かと思えば懐かしい面々じゃないか」


 黒いローブの頭巾の後ろに覗いた顔はラクフだった。


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