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特別任務 5 / 15

「ディック、ラウドの森はわかるな」

「はい。北のカルハイムの街の後ろにある森ですか」

「そうだ。カルハイムの詰所から伝令が来てな。ラウドの森にでる化け物退治に人手が欲しいそうだ」

「化け物?」

「熊のようらしいが、普通の熊ではないらしい。現地ではデーモンベアと呼ばれとる。東の大街道からラウドの森に入った商隊が何組か襲われておってな、詰所にいたうちの騎士も二人やられた。本来もっと人手を送りたい所だが、まあ、知っての通り今はテト地区の争いで、人員が足りんのじゃ」


 ヴィベールは弱り果てた顔をしながら話を続けた。


「今回はディック班、一班だけで行ってもらいたい。ノアは今日からディック班に入れ。トーブは魔法部隊での訓練を一旦中止し後方支援担当として班に戻れ。いいな」


 ヴィベールはそこで隣にいるアヌシビを見た。アヌシビは机に置いてあったナイフベルトを持ち上げると、皆に一つづつ渡していった。


「ケースから出すな」と注意をし「ディック。わかるな」と声をかけた。

「死の羽ですか」

「そうだ。直黒(ひたぐろ)の刃には強力な毒が塗ってある。化け物と退治するまで出すでないぞ。皆にもよく伝えておけ」

「はい」

「先ほどヴィベール殿が言ったように、うちの騎士もやられている。油断せぬようにな」

「ハッ」


 


 それから準備は急ピッチで進められた。カルハイムまでは急いでも3日はかかる、手回り品を素早くまとめ、食堂で黒パンの塊や干し肉、チーズをもらい袋につめた。一向がシエンナの城砦都市の門をくぐった頃にはすっかり暗くなっていた。冷たい風が吹いて来てマントをはためかせる。レイはノースレオウィルから持ってきたストールを耳まであげローブをかぶった。


 街道に灯りはなく闇に溶け込む暗い道を歩速で馬を進める。レイに取っては何度も警備で通った道だったが緊張感が走る。


 レイはトーブの横に馬をつけ静かに言った。


「もめるなよ」

「うっさい。分かってる」


 後ろのノアに目を向ける。


「おい、寝るなよ」

「だ、大丈夫だ」


 目を瞑り前屈みになったその姿はとても大丈夫そうには見えなかった。


「だいぶ前のノアに戻ったな」

「アヌシビ様の薬が切れたんだ。それに誰かはあんまりあの格好気に入ってなかったみたいだしね」


 ノアはわずかに目を開けそう言ったあと、また目を瞑り前屈みになった。レイはそのゆらゆら揺れている体を見ながら「?」と考えたが、よく分からなかった。やがて、緊張してるのは俺だけかと思って空を見ると、星がきれいに瞬いていた。




 3時間ほど進み、いつもの警備で立ち寄る北の詰所に到着するとそこで仮眠をとった。厩舎での仮眠となったが、わらに包まれるだけで暖がとれ、短いながらもしっかりと寝ることができた。暗いうちに簡単な朝食を済ませ、日が登るとすぐに馬を走らせた。背中に背負ったシエンナの紋章入りの盾に朝日が反射する。風は冷たいながらも久々に良い天気になったので気持ちがよかった。




 その日は夕方まで馬を走らせ、大きな農園でお世話になることとなった。いくつもの小屋や納屋、そして何度も増築されたような石造の住居がある。伝令が来ていたようで暖かく迎えられた台所には、ローストチキンと温かい野菜のスープが用意されていた。


 大きな暖炉の火は暖かく、1日走り続け凍え切った体にジンジンと心地よい刺激を与えてくれていた。ディックは別室で農園の主人と話し込んでいた。


「食べてもいいかな?」


 ノアが目をキラキラ輝かせてレイに訊いた。


「ダメに決まってるだろ」


 と食事に近づき過ぎているノアを引き離す。




 その日は夕食後、ディックからナイフの扱いに関して指導を受ける事となった。とは言ってもあの直黒のナイフを使うわけにはいかないので、ディックがいつも両腿にベルトで固定し帯刀しているダガーナイフを使っての指導だったが。


 持ち方から投げ方まで簡単な指導が行われた後、フォーメーションの確認が行われた。正面にディックとレイ、並ぶように盾を構え、その後ろにノア。そしてその後ろにトーブという並びだった。


「チェッ、俺、一番後ろかよ」


 とトーブが不満そうに呟いた。

 

「トーブ。お前、自分の役割がわかってないようだな」ディックが強い口調で言った。

「……」


 トーブは不貞腐れたように押し黙った。

 ディックは、(どうすればいい?)とこっそりレイに指文字のジャスチャーを送った。 レイは(少し持ち上げてもらえれば、たぶん)とゆっくり指文字で返した。それを見たディックは、少し思案したのち大きく息を吐いて話を続けた。


「お前は、正面の敵だけでなく、周り全体に気を張って警戒しろ。敵は一人とは限らん。それに今回の敵は獣だ。炎の攻撃に相手が怯むかもしれん、後ろで効果的に炎の魔法を使え。今回のキーパーソンはトーブ。お前だ。頼んだぞ」

「……あ、ああ」トーブがぎこちなく答えた。

「そして、これが一番重要な役割だが、もし、この班に何かあった時、お前は必ず生き残れ。何事より優先しろ。そして事態を他のものに伝えるんだ。この、もっとも重大で大切な役割をお前に課す。頼りにしてるぞ」

「分かった」


 向き直ったトーブが力強く頷いた。


「デーモンベアの話はここコーブ農園にまで聞こえて来ている。熊と言われているが、普通の熊とはまったく別物だと考えた方がいい。まさに異形の怪物だ。やられた北の詰所の騎士を俺は知ってるが、かなりの剣の使い手だった。それでも歯が立たずやられているんだ。気を引き締めていくぞ」


 と言ってディックは拳を突き上げた。


「?」と皆は固まっていた。

「あれ、こうやるんじゃないのか? お前ら叙任式の時にやってただろ」


 レイは慌てて拳をつけた。ノアとトーブのそれに続く。


「俺がお前たちを守る!」とディックは力強く言葉を放った。


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