特別任務 2 / 15
「どうした。俺の顔に何かへんなもんでも付いてるか?」
「いや……」
「なんだよ。変な奴だな、久しぶりに再開したって言うのに。ハハハ」
「いや……」
「ああ、この格好? 男子校に潜入しててね。まあ、そのうち直るさ」
レイは、あまりに違和感なく男になっているノアに、何とも言えぬ居心地の悪さを感じていたが、だからと言って何かを言えるわけではなく、黙って串焼きにかぶり付いた。ノアは相変わらずガツガツと食事をとりながら、今までのことを男言葉のまま話し始めた。
その任務は男装して男子校に通い、ある貴族の子供を秘密裏に護衛するという簡単なものだったらしい。しかし、静かに行動できるようなノアではない。護衛の理由が脅迫状だと言うことを知ると独自に調査をはじめ、派閥争いが絶えぬ殺伐としたクラスでリーダー格の男たちを倒し、自分がボスになった挙句、犯人を見つけ出し吊し上げ、おまけに仲直りまでさせてクラスをまとめ上げたらしい。
「せっかくいいお金をもらえる仕事だったのに余計なことをしたから。アヌシビ様に怒られちった。ハハ」
そう笑うと、ノアはまったく反省した様子をみせず、ムシャムシャと美味しそうに食を進めていった。
「こっちはどう? みんな元気か? モーラはまた痩せたな」
「おう。飯が足りねー」
モーラはそう言いながら何も付いてない串をガシガシと噛み締めた。
トーブが黒パンをちぎりながら真顔で返す。
「ここはまだ平和なもんさ。だがテト地区はいよいよ本格的な戦闘に入りそうな感じで、そのピリピリ感がこっちまで伝わってきてるよ」
「そうか。いよいよか」とノア。
「ランスとビルバが心配だな」レイが口を挟む。
「大丈夫さ、あそこには怪物グレーンがいるだろ。それより、俺らはひとまず日々頑張るしかないぜレイ。はやく、あのブルズブートキャンプを卒業だ。卒業あるのか知らねえが」
トーブは悲観的が表情で上を見上げた。
「え、お前ら、まだあれやってんの?」
とノアが驚いた。
レイとトーブは黙ったまま、ストラスブルを真似て筋肉を見せつけるポージングを取った。
「プッ、確かに二人とも大きくなった気がするよ」
「地獄、煉獄、天国コースが終わり、今は輪廻転生コースだ」
「仲良いね。二人は」
「まあな。レイと俺は同じ班だからな。もう一人シーネスという班長がいる。そして20からなる班を取りまとめるのがストラスブルだ」
「俺、……私は、明日からモーラ、サンタンといっしょに城壁内の見回り警備につくよ」
ノアは騎士見習いの時のことを思い出してきたのか、その喋り方が少しずつ直ってきた。
「サンタンは少し前にアヌシビに呼ばれて、今は特別任務についている」
とレイが言った。
「そうか」
「ルッカとロッカは、拡張工事で忙しい」とトーブ。
「そして俺は一人で寂しかった」とモーラ。
「みんなそれぞれの場所で頑張ってるんだな。よーし私も、明日から心機一転頑張るぞー」
とノアは張り切った。
× × ×
それからシエンナ地区が慌ただしくなるのに時間はかからなかった。テト地区が南南東に位置するトゥーバル王国の侵略を受けはじめたのをきっかけに、テト地区の防衛にあたっていたシエンナ騎士団とのあいだで激しい戦闘が繰り広げられることとなった。トラヴィスの騎士団、傭兵、そして中央の兵士たちがやってくるまで持ち堪えなくてはいけなかった。
シエンナ地区からは壁外警備隊の3分の1がテト地区へと向かい、隊長ストラスブル、班長シーネスもいなくなった。代わりにクレテイスが隊長として、そしてレイの班の班長としてディックがやってきた。
レイがそれを聞いた時「ディックかー」と苦手意識を持った本音が思わず口からこぼれてしまった。