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訓練の日々 23 / 23

 中央の広間ではグレーンとディックの戦いが続いていた。

 ロングソード(両手剣)を持つグレーンの構えは迫力があった。さらにその弧を描く一撃は重く、盾で防御するディックを幾度となくよろめかせていた。ディックも素早く身を寄せては自身の間合いに入るのを試みた。だが、轟音うなるグレーンの一撃に、ことごとく弾き返されついには猛攻の連打に耐えきれず、カタカタと音を立て壁面まで後退し膝をついた。


 グレーンは涼しい顔して中央まで戻ると、また次の相手を求めた。その後、モーラやビルバ、2回目のディック、そしてランスをも連撃で退けた。レイも対戦してすぐに、グレーンの一撃を受け、モーラのような巨軀とパワー、ビルバの剣技、ランスのスピードを持っていることがわかった。そして、重く響く剣の連打を受け体勢をくずし膝をついた。


 戦いを見守っていたストラスブルが呟く。


 「レイ、大胸筋、三角筋、広背筋、僧帽筋、脊柱起立筋、筋力足りず、か」


 その声を聞いて、ストラブルの横で一緒に見ていたトーブは嫌な予感がした。

 そこにセイセルーが静かに近づいてきてトーブに声をかけた。

 

 「君がトーブ君かな? 君の力ぐらい測っておこう」


 トーブが、ハッとして顔を向ける。


 「炎の魔法を僕に打ってみて」

 「えっ」

 「遠慮はなしでいいから」

 「しかし」

 「いいから」


 トーブは一瞬考えた後、右手のひらに炎を集めた。そして、少し離れたセイセルーに向かって火柱を放った。炎の熱とボウッという音に、皆の視線が集まる。当たる! と思ったその時、その炎がセイセルー前で弾けて四方八方に飛び散った。


 それを見てトーブは両手を重ねさらに力を込めたが、セイセルーは涼しい顔をしたまま、トーブを見つめていた。炎は相変わらずセイセルーの全面1mほどのところで見えないガラスにでも弾かれるように四散していた。


 「うん。もういいよ」


 息を切らしたトーブが中腰になってかがむ。

 セイセルーはそんなトーブの近くまで歩み寄り「まあ、僕に攻撃を当てようと思ったら、君があと100人は必要かな。今は皆とともに任務に励みたまえ。そのうち使いのものをよこそう」と言って彼は広間を後にした。


 ストラブルがトーブの近くに寄って呟いた。


 「トーブは筋力、あと100倍、っと」 


 ストラブルが二カッとトーブに笑顔を向けた。

 トーブは、嫌な予感が現実味を帯びてきているような気がして青ざめた。




 レイが片隅で座禅をしていたノアに声をかけた。


 「ノアはグレーン隊長とやらないのか?」

 「レイ、本当の戦いはこれからだよ」

 「?」


 グレーンを見たレイは、さすがのグレーンも疲れてきていることに気づいた。そして、ディックがレイに近づいてくる。「つぎレイだぞいけ。あの化け物を倒せ!」とグレーンを剣で指した。

 レイは、ノアが機をまっているのだと悟った。そして、再びグレーンに立ち向かうべく、疲れた体を伸ばしながら声をかけた。


 「期待してるぞノア」

 

 ノアは静かに片手を上げた。





 晩の食卓には、ローストポークを中心に、ふわふわオムレツ、トマト風味シーフードリゾット、ニシンの塩漬け、蒸したジャガイモ、シエンナ豆と根菜のスープ、チーズに黒パン、そしてデザートとして、リンゴとベイクドチーズケーキまでがビュッフェ形式で並べられていた。


 試合で疲れ果てボロボロになった面々がやって来る。結局、ノアはグレーンと試合はしなかった。そして、食堂に入ると真顔で「いざ、勝負の時」と呟いたのを、レイは呆れて静かに見ていた。


 訓練期間中に見たこともないご馳走。皆テンションがあがる。ノアとモーラ以外は、試合の疲れもあって、それほど食べることができなかったが、それでも美味しい食事があり、サンタンのギターも加わり、楽しく癒される夕べとなった。


 レイは最後にチーズケーキを取って中庭に出た。試合の疲れが溜まっていたこともあり、いつもの場所に座り休憩を取った。すぐに、同じようにチーズケーキを持ってきたノアがくる。


 「レイ。……迷いはとれた? いつだったか、ここで」

 「ああ……」

 

 ノアがレイの横に座り静かにチーズケーキを食べた。


 「あの時は、……ラクフが俺に『本当の殺し合いをやりたかった』と言った言葉に、なんか気持ちがね……」

 「そう、そんなことを」

 「強くなりたいと思う。試合は好きだ。だが殺し合いを進んでやろうとは思わない。いやむしろしたくない。……だが、こんな考え方ではダメなんだろうか? とか、いろいろ分かんなくなって」

 「何が正しいのかはよく分かんないけど。わかるよ。そのレイの気持ちは……」

 「そうか。ありがとう。でも、もう大丈夫」

 「良かった」

 「ああ」

 「あ、あのさ、……レイが同じシエンナ配属でちょっと、ホッとしたんだ」

 「……」


 ノアは慌ててチーズケーキを食べ終わるとゴロンと横に寝転がった。


 「ほら、レイになにかあったら助けにいけるかもしれないだろ。入団試験の最後で言ったからね『戦場では私もいる』って」

 「……」

 「私もいる」


 レイはその言葉をかみしめた。一人でさすらい生きてきたレイの心の底を温めてくれる言葉だった。


 「……ノア。それは、つまり、俺もいるってことだ。ノアの近くに」

 「……ああ」


 そう返事して、ノアはパッと立ち上がると「よーし、2回戦に行ってくる」と言って食堂に戻っていった。




 レイが食堂に戻ったとき、中央に皆が集まっていた。だれからともなく『同じ時期に騎士になった者は「盾仲間」と言うらしい』ということが伝えられた。


 「ノースレオウィルでは、こーやって拳を合わせて思いを繋ぐらしい」


 そう言ってノアが拳をあげ、レイを見た。

 レイが拳をあげ、ノアの拳につけた。それを見て、皆、だまって拳をあげ拳を突き合わせていく。


 「なんか言葉がほしいな」とトーブ。

 「モンペリ軍務長の『耐えて生きろ!』はどうだ」とビルバ。

 「よし、それだ、いくぞ!」


 トーブの呼吸に合わせて、皆、拳を高々とあげ、


 「耐えて生きろ!!」


 皆が雄叫びをあげた。


 そして、「ランス、ビルバ、ぜったい生きろ! 何が何での生きろ! 生きろ!!」とトーブが吠えた。レイは「俺たちは9人でひとつ。かならずまた会おう」と拳に力を込め声をかけた。




第3章 「特別任務」に続く

:::::::::::::::::::

第2章 「訓練の日々」Fin

第3章 「特別任務」に続きます。


第1部レイは、第5章まで予定しております。

第1章 シエンナ騎士団 (13ページ)

第2章 訓練の日々   (23ページ)

第3章 特別任務    (15ページ)

第4章 禁術の魔法   (16ページ)

第5章 メテオストライク(17ページ)

エピローグ(第1部レイ)


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