訓練の日々 18 / 23
「本当はやめようと思ったんだ」
サンタンが、ため息のような息をしみじみ吐いた。
「シエンナ騎士団を?」
「いや違うよ。音楽をね」
「……」
「そして吟遊詩人を捨てここに来た」
「……」
「いろんな国をまわって来た。旅をしながら、多くの戦を見てきた。勇ましい戦歌の裏に、悲しき闇、痛ましき傷、失望の死がある事を、ずっと見てきた。争いの絶えぬ世の中で、そこの人々の声を聞き、そして受け止めるのは……」
そこで、サンタンは大きく息を吐いた。
「自分は疲れた。レイの言うように、自分は吟遊詩人には向いてないんだ」
「でも……」レイは何か言おうと思ったが言葉続かなかった。
「でも、やっぱり音楽はいいね。ギターを弾いてるとそう思うよ」
「ああ音楽はいいね。特にサンタンのギターは」
「フッ、ありがとう。光栄です。あの日、壊れたギターを見たときに、自分はどうしてもほっとけなくてね。一度捨てたのに。それで、こうやって直して。また、弾いてるんだから、自分に呆れ笑ってしまったのさ」
「……吟遊詩人に戻るのかい?」
「まさか!」
「そう! ……良かった」
レイはホッと安堵の息をついた。サンタンがこのままシエンナ騎士団を去るのではないかと危惧していたのだ。
「吟遊詩人はね。レイが思っているような華やかな職業ではないんだよ。……少なくとも自分にとっては。お抱えにでもならない限り、身分も保障されず、何かあると最初に切り捨てられるのが、吟遊詩人など底辺にいる我々だしね」
「……」
「でも、こうやって再び音楽に向き合って。音楽を捨てたことは後悔した。ここで弾けるだけで十分だ。あ、それと、もう一つ楽しみにしていることがあって…… シエンナの城塞都市は商業都市として人々が集まるだろ。それと共に書物も集まり一般開放されている図書館があるのは知ってるかい? もちろん古い楽譜も所蔵されている。見習いが終わり、騎士になったら休みの日には、それを見に行きたいと思っている」
「図書館?」
「ああ」
「些細な望みに聞こえるかもしれないが、生きる道を見失っていた自分に、これ以上のものはない。少しでもいい、音楽と共に生きる。……それ以上のことは望まない」
「……」
サンタンが風呂を上がる。
さっぱりとしたのか笑顔を見せた。
今まで、音楽というものに触れる事のなかったレイにとって衝撃的な言葉だったが、何だかサンタンの清々しい顔を見て羨ましいと思った。
「それにしてもレイ。君もだいぶ変わってるな。自分が、こうやって自分のことを長々話したことなんて…… あっただろうか?」
サンタンはそう言い残して出て行った。
× × ×