訓練の日々 15 / 23
もう一つ訓練で大きく変わったのは、担当教官がストラスブルだけではなくなったと言う事だ。ある時は、グレーンが担当教官となり、ロングソード(両手剣)の使い方を指導した。
経験者のランス、ビルバ、そして怪力のモーラなどはスマートにロングソードを使いこなしていたが、他は皆、その重さや使いにくさに弄ばれてるような感じになっていた。特に小柄なノアは、子供がおもちゃの剣を振り回すがごとく危ない使い方をしていた。
「ウォリャー」
とノアが剣を振り下ろすが、勢い余って地面に叩きつける結果となった。
「ノア、危ないぞ」
と言ったものの、レイも主に習得していたのはソード&バックラーの技術だったので、ロングソードの使い方はうまくアドバイスをする事ができなかった。
「ロングソードは剣で防御をし、防御と同時に攻撃も兼ねる」
ビルバが上段に構えた「火の構え」からロングソードを繰り出し語った。
「だから、常に次の返しを読み、反応しなくてはいけない、そして相手の力を利用した一撃をこちらから返す。レイ、私にちょっと、打ち込んできてくれないか」
レイは突然のビルバの呼びかけに驚いたが、素直に従う事にした。
レイがロングソードを上段からビルバに打ち込むと、ビルバは自分のロングソードを巻き込む様な感じで回転させ一撃を受け流し、その回転のままレイに一撃を返した。レイの頭上でロングソードが止まる。その後も、いくつか構えを変えてレイが打ち込んだが、ことごとく攻撃を受け流され、一撃を返された。
「と、まあ。基本はこんな感じだ」
「ふーん。おもしろいね。こうかな?」
とノアがビルバの剣をまねて振り回しながら答えた。
「負けた私が、教えても仕方ないがな」
ビルバはそう言うと自分の素振りに戻った。レイは、ビルバが入団テストでノアと戦った時にロングソードを使っていた事を思い出した。そして、何か声をかけたいと思ったが、なんと言うべきか思いつかなかった。
……トーブだったら、軽く適当な事を言うだろうにな。
「……あ、ありがとうございました」
「いや、礼にはおよばない。何か迷ってるのか? まあ、何かあれば遠慮なく聞いてくれ ……私は古い人間だからな。経験だけは積んでいる」
ビルバはそう呟くと、再びロングソードを振りかぶった。
レイはその言葉を不思議に思いながらも嬉しく思った。
数日後、なぜビルバがいきなりレイに声をかけてきたのかが分かった。
ブルブートキャンプの筋肉強化中、トーブに「何故、お前までやるんだよ」と言われた時に「考え事をしたくないんだ」と漏らした事があった。きっとそれが周りに広まったのだ。
「お前、また余計な事を言ったな?」
と午前の訓練が終わったところでトーブに詰め寄った。
「ハッ? なんの事だ? 覚えがありすぎて良くわかんねえけど」
「……」
「それに、余計なことかどうかを決めるのは俺だよ。レイじゃない。俺だよ俺。そして、ここ一番重要! 俺の言葉に全て余計なことはない!!」
「……フッ、そう言えるのが凄いな」
「フン!」
トーブは踵を返すと、スタスタと食堂に歩いて行った。
「でも、ありがとうな。トーブ」
とレイが声をかけると、トーブは歩みを止めると戻ってきた。
「お礼はノアにいいな。一番心配してるのはノアだよ。さ、飯食おうぜ、飯!」
昼食後、中庭にはどこかで寝ているモーラのいびきが響いていた。
手前の木陰ではノアが寝転んでいる。その側まで食事を終えたレイがやってきた。
「寝ろ! ほら。そこ空いてる」
とノアが目を瞑ったまま、横のスペースを指差した。
「トーブに言われたのか?」とレイは立ったまま問いかけた。
「何が?」
「……いや。その」
「なんか思い詰めてるみたいだったからさ」
「やっぱりトーブに言われたのか?」
「見てれば分かるよ」
「……」
「一緒に寝ろ。私にできるのはそれぐらい」
「それに何の意味がある?」
「迷いは、食って、寝て、忘れろ」
「……ノア、らしいな」
「そこ、空いてる。寝たら。ビック&スモール&ミドルってコードネームつくかもよ」
「……いや、それは遠慮しとくよ」
コードネームって? それはコードネームなのか? とは言わなかった。
「辞めないでよ!」
「……」
「……辞めないで」
「……」
「まだ、借り返してないからね」
「……辞めないよ。やっと、居場所が見つかりそうなのに」
「……そう、よかった」
ノアはまた、ゴロンと横になった。
レイは広間に向かった。迷い、ではない何か、グラグラとした不安が、言葉にうまくできない自分の核の揺れが…… レイは頭を大き横に振った。いや、今は忘れよう。ひとまず見習いを卒業する事に集中だ。
そんな日々が更に続いて行った。そして、訓練の最後になるが、レイがもっとも話した相手が寡黙なサンタンであり。持っているスキルで皆を驚かせたのもサンタンであった。




