訓練の日々 14 / 23
大きく変わったひとつは、集団での訓練が多くなったということだ。
ある時はテストゥドと呼ばれる戦術を学ばされた。皆がかたまり大盾を前方、上方に密集させ楯の壁を作り、弓矢や投石を防ぎながら移動する。大盾が前面及び上部を完全に覆うので、飛び道具には抜群の効果を発揮するのだが、皆が息をピッタリ合わせないと隙間ができ、すぐに形が崩れてしまう。
「おい! ノア、腕が下がってるぞ、しっかり上げろ」
ストラブルの長槍がノアの大盾を叩く。
「守備特化だが、弓矢など遠方からの攻撃から強力に身を守ってくれるからな。手をぬくな、そして皆で協力しろ!」
ストラブルが形を見ながら、隙間を指摘する。
「モーラ、もっと引っ込め。隙間ができるとそこを射抜かれるぞ。そら、ビック&スモール。お前らは要注意だ、細心の注意を払え」
トーブが「ビック&スモール、クックックッ」と笑う。
「トーブ、お前は余裕あるな! よし、今日は居残り特別レッスンだ」
「ゲッ〜」
その日の晩。トーブは、ブルズブートキャンプなる筋トレ特殊メニューを追加でやらされた。クランプで腕をプルプルさせながら、トーブが言う。
「ブル隊長! 俺、魔法使いなんですけど」
「これからの魔法使いには筋肉も必要だ。しっかり励め」
そんな、二人をレイが見ていた。
「なんだ? レイ。お前もやりたいのか? 大歓迎だぞ」
「えっ?」とトーブがレイを見た。
「お願いします」
とレイがトーブの隣でクランプを始める。
レイはトーブを見て「付き合うよ」と呟いた。トーブの事が気になった事ももちろんあるが、自分の中にある、もやもやした気持ちを無くしたかった。
「よーし。よし。今日は大サービスだ。地獄コース行ってみるか」
とストラスブルが俄然やる気を出して、レイの隣でクランプを始めた。
「ハーハッハッハ、筋肉は裏切らん。迷った時は筋肉を鍛えろ。ハッハッハ」と笑うストラスブルの声と、「まじかー」とトーブの嘆きが広間に響き渡った。
また、ある時は城砦の拡張工事をさせられた。
ここで分かったことは、あまり皆と関わりを持たない双子のルッカとロッカが、元石工で建築技術に精通している事だった。他の皆が石切工職人の下で、図面通りに石材を切り出す石切作業を行う中。ルッカとロッカは石工職人と共に石のバランスをみて石を組み上げていく。
関心して見ていたレイにルッカが言う。
「レイ、この石少し歪んでる。真っ直ぐ切ってくれ」
「ああ」
慎重に切って渡した石を見てロッカが言う。
「レイ、この石少し歪んでる。真っ直ぐ切ってくれ」
「あ、ああ」
二人とも建築に関しては妥協がなかった。
トーブが近づいてきて耳打ちする。
「レイ。いい事教えてやろうか?」
「なんだ?」
「驚くなよ。ルッカとロッカの事、双子だと思ってるだろ?」
「違うのか?」
「違うんだなーこれが、実は三つ子なんだなー」
レイはびっくりした。ルッカとロッカが三つ子だと言う事にではない。トーブはどこからその情報を仕入れているんだと言う事にだ。よーく、トーブを見ていると、トーブはずっと誰かと分け隔てなく喋っていた。ルッカとロッカはもとより、近づきがたいランスや、年配のビルバ、寡黙なサンタンにも。
ある意味才能だなと思う。そして、トーブに秘密を話すと次の日には皆に知れ渡るなとも思った。……悪い奴じゃないんだけどな。
「こらトーブ! 口を動かす暇があったら手を動かせ!!」
ストラブルのだみ声が響く。
「よし! 今日もブルズブートキャンプだ」
トーブの顔が青くなったのが分かった。レイはそんなトーブを見てフッと笑いながら「俺も、付き合ってやるよ」と声をかけた。ストラスブルがトーブとレイの肩に手をおいて「今日は地獄の上の天国コース行くか」と呟いて、ハッハッハッハ。と笑い声をあげた。
トーブの顔がますます青くなっていった。