訓練の日々 13 / 23
二日後、昼食の後、中庭でノアが寝そべってレイに言った。
「レイは子供だね」
「うるさい」
結局あの後、食堂でトーブとの派手な喧嘩を行い、レイは1日の謹慎処分となった。
「しかし、案外すぐトーブの奴と仲直りしたね」
「フン。……まあ、あいつはああ言う奴だからな。それに、あいつはあいつなりに、今回の事件にショックを受けてたみたいだし」
ラクフと一番仲良くしていたのはトーブだった。ラクフの本心は分からないが、トーブはラクフに少なからず心を許していた所があったのだ。
ノアが体を起こしレイの隣に座る。
「じゃ、レイがたまにトーブの相手してやりなよ」
「ごめんだね」
「いいコンビだと思うけどな」
「……」
確かに少し相手をしてやるかな。根は悪い奴じゃないしな。それにこれ以上、辞退するものがでたら寂しくなるし……
今回の件にショックを受けてさらに2人の辞退者が出た。これで訓練に付いていけず去ったものが合計5人、そしてラクフがいなくなり、ディックも見習生の見張りの任を解かれ姿を見なくなった。宿舎の中に空いたベットを見ると寂しくなる。
レイ、ランス、モーラ、トーブ。そして、ずっと傭兵をしていたらしい、一人年配の戦士ビルバ。寡黙な褐色の戦士サンタン。ずっと二人でいる双子のルッカとロッカ。
見習生は、ここにノアを加えた9名になっていた。
夜、レイはベットに寝転び、隣のラクフの寝床をみた。気持ちの悪い違和感が全身を襲う。先日まで、普通に話していた奴がスパイで、「レイ、お前とは本当にもう一度やりたかったぜ。本当の殺し合いをな」という言葉を残し消えたのだ。
本当の殺し合いを……
そんな事は考えた事がなかった。もちろん衛兵としての仕事や、シエンナ騎士として戦場へ行かねばならぬ時、生死をかけた戦いをせねばならなくもなるだろうし、その覚悟は持っていた。しかし、それ以外の場所で好き好んで殺し合いをすることなど……
暗い気持ちを持ちながら、レイはその日眠りについた。
強く生きるという事とは、一体……
次の日からは、訓練が大幅に変わった。相変わらず厳しい訓練である。
その厳しい訓練が、幸いにもレイが考え事をする時間を奪い、暗い気持ちを忘れさせてくれた。