訓練の日々 11 / 23
「彼女は今、隔離しておる」
「隔離? とは、どう言う事ですか?」
「うむ。順を追って話す。まあ、だから心配するな」
ヴィベールがゆっくり皆に語りかける様に話しかける。
「ここに来る奴らは、皆それなりの過去を抱えている。俺らは、貴族のみの騎士団みたいに、身分やら宗教やらの縛りはなく、農民出や町民出の者、しかもあぶれた者たちが多い。だから、深く過去は詮索せん。皆、ここからスタートし直せば良いと考えておる。だがな、騎士としての誇りを持ち、仲間と共に活動するためには、揺るぎない信頼が必要となってくる」
ヴィベールはそう言うと皆を見渡した。
「最初、衛兵の詰所でわしは身分証明を求め出身を聞いたな。あれは唯一と言っていい皆の身体検査でもある。我々の隠密がそれぞれ出生を出身地まで確認しに行っておる」
そう言うとヴィベールは、アヌシビを一目見て言葉を続けた。
「あのラクフと名乗った男は、堂々と嘘をつき、立派な偽の証明書を持って来おった」
レイは、ノアと共にヴィベールの前に立ち、羊皮紙の身分証明を見せたのを思い出した。そしてノアの読めぬほどに汚れた身分証明も。……あれは、血の汚れだ。ノアには聞かなかったが、血だ。……ノアには、何かまずい所があったのだろうか?
ヴィベールの話では、皆の確認をしたが、ノアの出身地マリニエール=シュル=メールだけ、まだ確認が取れてなかったらしい。
「ま、じきに確認が取れる。心配するな」
ヴィベールがレイを見て最後にそう言ったが、レイは血塗られた身分証明を思い出し胸騒ぎがして、その後のアヌシビの話が耳に入らなかった。
この日はその後、ストラブルの訓練が通常通り行われたが、ずっと重い空気が流れていた。その流れは、普段は楽しみであるはずの食堂に向かう途中も続き、皆、何も喋らず中庭を抜け食堂へと向かっていた。
「アヌシビ様の声は耳にいいな。ずっと聞いていたい」
重い空気とは対照的にトーブが軽い感じでレイに言った。
「しかし、ディックがシエンナの隠密で俺らの先輩だったとは…… ハハハ、何が何だかわかんねえな。ラクフはスパイだって言うし、案外、ノアもスパイだったりしてな。ハハ」
「なんだと!」
レイが振り向いて、トーブの肩をつかんだ。
「何だよ。わかんねえだろ。だからノアを隔離してんだろうが」
「お前……」
その時「私が何? なんか呼んだ?」とノアの声が聞こえて来た。
レイが声の方を向くと、ノアが木陰で寝そべっていた。