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シエンナ騎士団 2 / 13

 衛兵の詰所には三人の騎士がいた。

 レイが羊皮紙に書かれた形ばかりの身分証明を見せ、入団試験を受けに来た旨を伝える。

 詰所の中でたぶん一番年配であろう白髪の老騎士が、その証明書を受け取りジロリとレイを見た。「ノースレオウィルだー。フンッ」と鼻で笑い、羊皮紙をレイに投げ返す。

 レイはいつもの反応に表情を変えず、羊皮紙を綺麗に丸め皮袋に直した。


 ……どこでも一緒だな。 


 ノアも羊皮紙を差し出したが、黒ずみの汚れが激しくとても読めた物ではなかった。

 老騎士は羊皮紙を摘む様に持ちながら「これ読めねーぞ」とノアに言った。


「それしか持ってない。何でもやる、だから私も試験を受けさせてくれ」


 老騎士は怪訝な顔でノアを見ながら「出身はどこだ」と訊いた。

 

「マリニエール=シュル=メール」

「南の果ての果ての果てじゃねえか」

「そんなに遠くない」

「……確かに、ここに空押しされた印章の窪みはマリニエール=シュル=メール」

「だから言ってるでしょ。怪しくない、私」


 レイは横目でノアを見ながら思った。

 ……いや怪しいよ。それにこいつ、俺より全然遠いじゃねえか。

 

「お前、幾つだ?」

「そこに、16って書いてあるでしょ?」

「だから読めねえーって言ってんだよ」


 老騎士は汚れた羊皮紙にもう一度目を近づけた。


「そっちのお前は15か」

「はい」

「お前ら、ここで死んでも、その故郷に1通手紙がいくだけだ。そして、ここはどこよりも死が近い。分かってるのか?」

「手紙は要りません」

「手紙はいらない」


 レイとノアの声が重なって問いに答えた。

 レイはノアを見た後、話を続けた。


「祖母が亡くなり、ノースレオウィルにはもう誰も親族はいません」

「それでもな、一応知らせる決まりになってるんだ。誰か知ってるやつぐらいはいるんだろ」

「……それでは、剣術を教えてもらっていた師範の奥さんの元に」

「覚悟はあるのか?」

「はい」


 レイは手を握りしめた。


「そっちのお前は、どうだ」

「ある。ある。おおあり。だからお願いします。受けさせて下さい」

「で、どこにする連絡先は」

「そ、それは…… もう、誰も。一人もいないから」


 身を乗り出していたノアが急に小さくなる。


「うーん?」

 老騎士が怪訝な顔をノアに見せる。


「あ、でも。気にしないんで、手紙はいいです」

「そういう問題じゃないんだ」

「……」


 ノアは下を向いて目を逸らし押し黙っていた。

 レイが、それを見て一歩前に出る。


「その手紙の差し出し場所は、私と同じ所ではダメですか? あるいは自分自身にでもいい」

「……レイ」


 老騎士の視線に耐えながら二人は返答をじっと待った。

 しばらく考え込んでいた老騎士が立ち上がった。

 

「いいぜ行きな。おい、こいつらも試験場へ連れて行ってやってくれ」


 そう言うと、近くに若い騎士が二人やってきて一緒に詰所を出る。出掛けに老騎士に声をかけられた。


「俺の名はヴィベール。頑張んな。あ、そうそう、ここでは簡単に『何でもやる』なんて言うんじゃねえ。本当に何でもやらされるぞ。わかったな」


 レイが会釈をした横で、ノアが「わかった」と陽気に答えた。


行きな(生きな)。死ぬなよ」


 ヴィベールが呟いた言葉を背に、二人は詰所を後にした。

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