訓練の日々 6 / 23
医務室のランプの光が揺らめき、静寂の空間を揺らす。
ベットには腹を出してラクフが寝ていた、クレテイスが腹をゆっくり押していく。
「どの辺だ痛いのは?」
クレテイスの声が乾いた石壁に反射する。
「そ、その辺が」
「ラクフとか言ったか? 張りはないようだ、脂汗もかいておらんし、吐き気もないのだろう。なら、これを飲んで寝ていろ。それでも、治らぬ時は、もう一度来い」
クレテイスが瓶から丸薬を取り出し、ラクフの手に乗せた。
「はい、分かりました、へへ」
「それと、もう一つ、ここには武器を持ってくるな」
「へっ?」
「護身用か何か知らんが、ここは私が守っている。武器は不要だ」
「……」
「それとも何か? 他の理由があってここに来たのか? 靴の仕込み、ベルトの変形ナイフ、他にもチュニックの下に何か隠し持ってるな。 私を甘くみない方がいいぞ」
「いやいや、そんなそんな、ハハ、失礼しました」
ラクフはそう言うと慌てて医務室を後にした。
フーと溜息をついた後「まったく大したもんだ」と呟やくと、数歩あるいて「やっぱり俺か」と言って立ち止まった。
「出てこい、いるのは分かってるんだ」
木の影から、スッと人影が現れた。
「コソコソ動いてたのは分かってたんだ、誰をつけてるのか分からなかったから、一人になる時間を作ったんだが、やっぱり俺か」
「……」
「ディックとか言ったか?」
人影が動く、そこにはレイと初戦に戦った男ディックがいた。
「何か俺に恨みでもあんのか?」
「……」
「どこの者だお前? どうせ復讐だろ」
ディックは何も答えず、ただラクフを凝視していた。
「フッ、恨まれる覚えがありすぎて、お前が誰か分からねえが、俺の素性を知っちまっちゃんじゃ生かしておけねえな。まったく、面倒くさい事になったもんだ、お前ぐらい殺すのは訳ないが、さて死体をどうするか?」
ラクフは腰のベルトから蛇腹状の刃物を抜き出すと、ヒュッと素早く振って1本のナイフにした。
ディックも背中、腰の鞘からダガーナイフを抜いて身構えた。
「やるきかい? 入団試験の時の太刀筋を見たが、まるでなってねえ。良くそれで復讐しに来れたもんだな」
ラクフは浮くような足捌きでふわりと間合いを詰めたかと思うと、今度は一転鋭い刺突を繰り出した。ディックのチュニックが裂け、突き刺さったかと思われた一撃だったが、ディックはすんでの所で身を躱し、逆にダガーナイフの刺突を繰り出して来た。
ラクフは身を逸らして避けると同時に、今度はナイフを振ってディックの首筋を狙った。しかし、またすんでの所で躱され腕を巻き取られ関節を極められた。
痛みに「クッ」と声が漏れたが、そのまま関節を人とは思えぬ方向に方向に曲げ、拘束を逃れると、離れぎわにナイフの一撃を放った。掠ったディックの頬から血が滲み出ていた。
相手の力量、動きに驚いたのは互いにだった。牽制し合うように間合いを取る。
「お前に恨みはない」とディックが言った。
「なに?」
「予定外だがしょうがない、ラクフ、今お前を拘束する」
「な、何だお前!?」