訓練の日々 5 / 23
結局、午前中いっぱい続いたストラスブルとモーラの熱戦は、紙一重でストラスブルの勝利となった。そして熱戦のせいで、レイもノアもほとんどの者が周回遅れとなってしまった。トーブがチッと舌打ちをして「まったく……」と呟いた。
食事は皆、食堂で行う事になっている。
すごい勢いでガッツいて食べるノアとモーラ以外は、皆、疲れすぎて気持ち悪るく食欲がなかった。それでもスープで黒パンを流し込み、肉団子を少しずつ食べた。
レイがハッと目をあげると、前にストラスブルが立っていた。
「これは周回遅れの罰だ」
と言って皆んなの皿に肉団子を乗せていく。ノアは目をキラキラ輝かせていた。レイはその姿を見て、まったく大した奴だ、と今までで一番ノアを認めた。ストラスブルがモーラの前に立った。
「お前は敢闘賞だ。どうする、増やすか、減らすか、選ばせてやる」
「もちろん、お代わりでお願いします。ブル隊長!」
「良し」
ストラスブルが嬉しそうに肉団子をモーラの皿に山盛り乗せた。
「皆、食える時に食え。でないと死ぬぞ。これも訓練だ。食え!!」
食事の後にはしばしの休息があったが、皆にその休息はなかった。食事が終わらず居残っていたからだ。ただ二人を除いては。
午後の訓練は、走り込みが行われた。
訓練場の中を隊列になって走らされる。決してペースは早くなかったが、なかなか終わらない走り込みから、遅れてくるものがチラホラと出て来た。得にモーラは午前と違い、その巨軀から長い時間走るのが辛そうだった。
後ろからストラスブルの檄が飛ぶ
「苦しそうにするな! 戦場では甲冑をつけて走るんだぞ。これぐらいで根を上げてどうする。笑え、笑顔だ。にこやかに走れ!!! いいか、皆、俺より若いんだ。俺なんかに抜かれたら、また罰を与えるからな!」
にこやかな厳つい顔が、ずっと見習い生の後を付いて来ていた。レイは、檄を飛ばしながら、ずっと皆と一緒に走っているストラスブルを、素直にすごいなと思った。
「ブル、いったい幾つだよ」とトーブが呟いた。
結局、半数はストラスブルに抜かれる事になり、罰として大量のシエンナ特産の豆を食後に追加で食わされる事になった。
そんな訓練がしばらく続いた。ある時はロングソード(両手剣)の素振りを延々行い、ある時はハンマーを振り回し、またある時はロングスピアの突きを延々やらされた。午後は基本隊列を組み走らされる。会則を覚えてないものは走りながら復唱させられる。
1週間がすぎた頃には、3人が訓練に付いていけずこの場をを去った。レイとノアは必死に訓練にくらいついていった。ノアは体力的ハンデをスピードや機転で切り抜け、周りの信頼も勝ち取っていった。レイも背中の傷が徐々に快方に向い、本来の動きができるようになって来た。
レイがすぐ辞めるのではないかと思っていた、入団試験で最初に戦ったディックという男も残っていた。
ノアの話は相変わらず飯の話ばっかりだったが、その頃にはレイもノア同様、飯の楽しみだけを糧に1日を過ごすようになっていた。同じ場所で同じような日々が続く毎日。宿舎、屋外の訓練場、又は大広間、食堂、浴場、そして少し気の休まる中庭。以上の場所で見習い生の生活区域は隔離されていた。
レイの場合はあと定期的に医務室を訪れていた。この場所だけが少し特殊で、奥はシエンナ騎士団の治療室と繋がっていた。
その日、医務室でクレテイスの触診を受けたレイは、「化膿するかとお思ったがな、だいぶいいようだ。もう大丈夫だろう。もう医務室には来なくて良い」と言われた。宿舎に戻る途中、暗い中庭でラクフとトーブの声を聞いた。
「一人で行くって言ってんだろ」
「いや待てよラクフ、俺も行くよクレテイス様に会いに」
「連れションじゃねえんだからな、二人で行ったらおかしいだろ。お前は後で行け!」
「ひ、一人でか……う、うむ」
ラクフがトーブを置いて早足にレイの横を通り過ぎた。