訓練の日々 4 / 23
次の日から本格的な訓練が始まった。そしてこの本格的な訓練が始まってからすぐに、レイもノアも入団の試験が適当な理由を理解した。試験などあってもなくても良かったのだ。容赦ない訓練の厳しさ、付いてこれる者だけが残る。これが本当の試験だと悟ることになる。
朝食後、午前中は主に力を必要とする訓練が行われた。試験が行われた大広間の裏手にある、屋外の訓練場。その日は、スイカほどの石が並べて置かれていた。
「まずは石を投げろ!」
ストラスブルにそう言われた時、皆、その単純な作業に、正直馬鹿にした思いがあったと思われる。レイですら、安心してホッと息をついたぐらいだ。スイカ程度の石を抱え持ち上げ投げる単純な作業。
「私が見本を見せる! しっかり膝を落とし体の重心に石を乗せ持ち上げろ。投げる時も同じだ、体の重心で足を使って投げろ! でないと腰をやるぞ。分かったかー!」
「……」
「返事は!」
「ハイ!!」
「良し、では皆んな石を選べ。そして、向こうの端に向かって石を投げ進んでいくぞ。向こうまで着いたら折り返しだ。始め!」
ノアがサッと立ち上がって、石の場所に駆けて行った。石を見比べて少しでも小さな石を選んでいる。流石にこの行動に文句を言う者はいなかった。皆、ノアに続き石を選んでいった。
レイは持ちやすそうな少し平たい石を選び持ち上げた。ズシリとした重さが背中の傷に響いた。
「よし、皆んな私に着いて来い!」
ストラブルが石を放り投げて進んでいった。
ノアが震えるような足取りで、石を持ち上げながら声を上げた。
「ストラスブル担当官、こ、これは私には必要ないんじゃ、ないですかね」
「馬鹿者! ノアとか言ったか。お前に最も必要な訓練だ。お前にはこの基礎訓練期間に10kgの筋肉を付けさせてやる。覚悟しておけ!!」
「ヒィ〜〜」
「それから、見習い騎士でも一つの部隊だ。皆、心を一つにしろ。そして、俺のことはブル隊長と呼べ!」
「………」
「返事は!」
「は、はい!」
とノアは返事をし、石をなんとか落とすように放り投げた。
「あ、あのブル隊長」 とトーブも続いた。
「なんだ!」
「自分は魔法使いなので、この訓練より魔法の訓練を……」
「よし、分かった。トーブだったか? おまえには全ての訓練が終わった後に魔法用の訓練をみっちり追加だ。任せておけ!」
「ヒィ〜〜」
そう言ってる間にもストラスブルは、どんどん石を投げ進んでいった。
「ほら、私に抜かれたものは罰があるぞ。いそげいそげ!」
モーラがめんどくさそうに石を持ち上げた。
「ブル隊長。ブル隊長を抜かせば何か褒美はありますか?」
「モーラといったか? ほう、私を抜かす気か? よかろう、私を抜かせば食事を増やしてやろう」
「ほんとでありますか、ブル隊長!!」
モーラはそう言うと、俄然やる気を出して豪快に石を投げた。その、追い上げは凄まじく、ストラスブルの後に続いていたランスをすぐに追い抜いた。
「ほうほう、見どころある奴がいるな。着いて来い」
と言って、ストラスブルもスピードを上げた。
トーブが「余計なことを……」と呟いて、チッと舌打ちをした。ストラスブル(とモーラ)に追い越されないように、皆スピードを上げさざるえなかったからだ。多分、みんなそう思ったことだろう。
いや、もう一人、前向きにやる気を出してる奴がいた。レイが横を見ると。「ウォリャー」と雄叫びを上げて、ノアが石を放り投げていた。大して飛ばなかったが。
「ノア、諦めろ。無理するな」
「諦めーーん。……ウォリャー」
ノアの石は飛ばなかったが、やる気だけは見せていた。




