訓練の日々 3 / 23
宿舎は、広間に所狭しと2段ベットが置かれただけの、殺風景な場所だった。入り口脇に1つだけ藁を敷き詰めた寝床があって、モーラがいびきをかいて大の字に寝ていた。どうやら体の大きいモーラ用のベットらしい。
レイは、狭い通路を進み空いている場所を探す。一番奥ランスの下が空いていた。
「ここ、いいですか?」
「ああ」
緊張している訳ではないが無意識のうちに敬語になってしまう。その風格と厳格さがランスにあった。まあ、だから、この場所が一つ空いていたのかもしれないが…… レイは皮袋の荷物をポンとベットに放り投げると、座って一息ついた。周りを見回してみると、ここには見習い騎士しかいない様だ。ノアはいない、女性はまた別に宿舎があるのだろう。
「背中の傷は痛むか?」
ベットの上からランスの声が聞こえて来た。レイは立ち上がりベットの上を見た。
「すまない。貴公が強かったので手加減できなかったのだ」
「いえ」
会話が続かず、気まずい空気が流れた。
「あ、あの。会則、会場での暗唱、すごい」
「ああ、ハハ。まあ、似た様な会則は他で覚えた事がある。シエンナ騎士団の会則は宗教色がない分覚えやすかった。宗教が絡んでくると規律はこんなもんじゃない」
「そうか ……そうですか」
ランスは鼻でフッと笑うと「敬語なんて使わなくていい。気にするな」と言ってごろんと横になった。
「……はい ……ああ」
レイはそう返してベットに座った。
すぐに横にいた男が声をかけて来た。レイが2回戦目に戦った少し小柄な男だった。若くも見えるが年上にも見える、年齢不詳という言葉がふさわしかった。
「ラクフだよろしく」
「ああ」
「まったく大したもんだぜ、その若さでその腕前。どこで習った? その剣術?」
「ノースレオウィルだ」
「ノースレオウィル、かー、それはまた。今度また手合わせしてくれ」
「ああ」
ラクフと名乗った男は立ち上がると、レイの近くに来て小声で喋り始めた。
「でどうだった。医務室は? あのトーブって奴が言うにゃ、クレテイスっていう修道女がとにかくヤバいって言ってんだが、どうなんだ?」
「?」
「美人なのか?」
「さ、さあ」
「俺は一度顔を見に行こうかと思ってんだ、ここにいても楽しみなんて何もないからな。それで、他になにか面白こととかなかったか?」
「さあ、ずっと寝てたもんで」
「そうか、そんなもんか。……ま、よろしくな」
ラクフはそう言うと自分のベットに戻った。
レイはずっと視線を感じていた。ラクフと話をしている間、ジッと見ている男がいる事に気づいていた。入団試験日にレイが最初に戦ったディックという男だった。




