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訓練の日々 2 / 23

 時間は少し遡る。

 騎士見習いとしての訓練は入団試験の次の日からから始まっていた。医務室での朝食を済ませたレイは、支給されたグレーのチュニックを着てトーブと共に昨日の広間へと向かった。熱は引かず、最悪の状態ではあったが、弱音を吐くわけにはいかなかった。広間にはすでにグレーのチュニックを着た皆が集まっていた。

 

 ノアがすぐに近くまでやって来て声をかけた。

「大丈夫か? レイ」

「ああ、まあな。クレテイスさんに薬をもらって飲んだ」

「クレテイスさんね……ハハ」


 とノアは嫌な事を思い出したようで明後日の方向を見た。


「大丈夫だ」


 すぐに丸坊主、鋭い目つきのシエンナ騎士を先頭に、何名かが入って来た。丸坊主の男は長い棒を脇に抱えるように持っていた。


「ここに並べ!」


 ひどいダミ声だが低く轟く音圧で広間の空気を一変させる。


「このシエンナの要塞都市を始めシエンナ地区を担当しているストラスブルだ。しばらくの間、訓練を担当する。厳しくいくからな。覚悟しておけ」


 そこでヒュッと長い棒を振り回すとゴツッと地面に叩きつけた。


「軍務長の言葉を思い出せ『耐えて生きぬけ!』」


 しばらく静寂が広間を支配した。


「付いていけぬものはここを去ってもらう。その覚悟で死力を尽くせ」

「……」

「それでは早速だ。騎士団に取って一番大切な事を教える」


 そう言って、ストラスブルの合図で、他のシエンナ騎士が冊子を皆に一冊づつ渡し始めた。手垢のついた古い冊子がレイの手元にも渡される。


「そこにシエンナ騎士団の会則が書いてある。騎士団の中で最も大事な規則だ。すべて覚えろ。完璧に、一語一句違わず体に叩き込め! 会則、規律の守れぬものには罰則がある。場合におよっては破門もある。甘く見るなよ」


 その後、みな散り散りになり、座って会則と睨めっこする事になった。レイは正直助かったと思っていた。しんどい体だったが、これなら何とかこなせそうだ。トーブが近づいて来て、レイに耳打ちした。


「めんどくせーなー、な、レイ。これ、62条まであるぜ、ウゲー」


 すぐにストラスブルが飛んできて、トーブとレイの太ももを持っていた棒でピシャリと叩いた。


「怪我人だと思って、甘く見ると思ったら大間違いだぞ。戦場では言い訳は通じん。私語は慎め! 俺は情け容赦ねえ。覚悟しろ」 


 ダミ声が広間に響く。トーブが太ももを抱えて飛ぶ様に離れて行った。

 会則の中には実に様々な事が書かれていた。まず、総長の権力は絶対だという事から始まって、入会の原則、身なりの規則、食事の規則、生活全般の規則、過ちについての規則、など事細かに書かれていた。


 初日、全ての時間を費やしたが、会則をすべて完璧に覚え終わるものは出なかった。そのまま会則の冊子は持ち帰り宿舎でも読む様に言い渡された。レイは医務室に戻り食事と薬を飲んだ後、戻ってまで冊子を読む力が残っておらず、疲れ果てた様に眠りについた。トーブは皆と同じ宿舎に移った様で隣は静かだった。


 次の日、だいぶ体の回復したレイは遅れを取り戻すために、必死に冊子を読み込んだ。熱も下がったため集中する事ができた。2日目が終わる頃、ランスが全ての会則を皆の前で暗唱し初合格者となった。皆から感嘆の声が上がる。


 その日、レイはクレテイスの触診を受けて、皆と同じ宿舎に行く様言い渡された。少ない荷物をまとめ医務室を出ていく時、特徴ある低いダミ声を聞いた。


「どうだい。様子は」

「もう、大丈夫だろう。熱も引いたし。今日、皆と同じ宿舎に行く様に言い渡した」

「そうかい、じゃ、遠慮なくいくかな。会則ばっかり覚えさすわけにもいかんしな。俺も早く体を動かしたくてうずうずしてたんだ、ガハハハ」

「静かにしろ!」

「う、うむ。すまん」

 

 レイは特徴あるダミ声が素直に謝るのを聞きながら、そっと医務室を後にした。

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