シエンナ騎士団 12 / 13
レイはいつの間にか眠ってしまったらしい。起きた時には夕食が運ばれてきた。ソーセージにチーズ、黒パン、豆類を中心とした質素なスープに、オレンジ。レイには十分な食事だった。香辛料の効いた豚の血を使ったソーセージが美味い。
ノアのガッツク様な食事姿が想像できた。
「おい、ひとついい事教えてやろうか?」
とまた隣から声が聞こえて来た。
「なんだ? トーブ」
「ノアって奴と、モーラって奴はクレテイスに怒られて晩飯抜きになったらしいぞ」
「……そうか」
「やばいぞクレテイス」
「……」
まあ、あの二人はあんなけバナナを食ってんだから、今日はなくても大丈夫だろう。しかし、ノアの泣き顔が容易く想像できて、少し可笑しくなった。
「話は変わるが、お前全然炎にビビらなかったな。いや、魔法にと言うべきか」
「ああ、慣れてるんだ」
「慣れてる? 慣れてるって、魔法使いなんてそうそうお目にかかるもんじゃないだろ」
「……ああ、そうだな。まあ、たまたま近場にいたんだ」
そのまま会話は途切れ、衝立の向こうから「チッ、ついてねー」という声が再び聞こえて来た。
レイは食事が終わると体全体が熱いのに気がついた。食事と一緒に出されていた、丸薬を飲んで横になる。背中の腫れがひどくて仰向けにはなれなかった。それでも疲れからか、またすぐにうとうとし始めた。
眠りに就くレイの頭の中に、魔法の事が色々駆け巡る。魔法を使うトーブとの戦いに、それ程恐怖を抱かず望めたのは、一つにはノアが、あらかじめ『トーブが魔法を使う』と忠告してくれた事があった。そして、も一つ、こちらの方が大きいだろう、それはレイがこれまで魔法と関わって来た因縁の軌跡だった。
× × ×
この世界には魔法というものがある。
とは言ってもその魔法を授かれるのは、数万人、数十万人に一人ぐらいの割合で、大概の者はなんの関わり合いのない一生を暮らして終わる。それでも確かに魔法は存在していた。火・空気・水・土の四元素に基づく物が多く、中でも火の魔法は全体の7割を占めていた。ついで水、空気、土と続き、極々稀にそこには属さない魔法があった。
この国には風習として6歳になった者は皆、司祭の前に行き魔法見極めを行ってもらう儀式がある。あくまで儀式的な物で、健康に育ったお祝いの様なものだったが、稀に魔法を授かっている者が見つかり話題となる事もあった。
そしてレイもまた、その日の事を覚えている。
祖母に連れられ、司祭の前にたったレイは、そこから見えるステンドグラスという物の美しさに目を奪われていた。そして、にこやかにやって来た司祭が、レイに手をかざし、その表情が一変したのを覚えている。
「メテオストライク」
司祭が震える声でレイに告げ、その場に座り込んだ。
禁術、そして伝説の魔法であった。




