シエンナ騎士団 11 / 13
「何とも適当な試験だったな」
医務室に向かいながらレイが呟く。
「いいじゃん。合格なら。飯食えるよ。飯、へへ」
ノアがレイの横に付き添っていた。
レイは険しい表情を見せたあと、医務室のドアの前で立ち止まりノアを見た。
「一つ訊きたい」
「な、なんだよ。唐突に」
「どうして、あのトーブとかいう男が魔法を使うってわかった?」
「そ、それは……、わ、わかるんだ。うまく説明できないが、わかるとしか」
「……」
「それじゃ、ダメか?」
ノアが不安な表情を見せる。
「それじゃあ、もう一つ訊きたい。俺が魔法を使えるかどうか分かるか?」
「えっ?」
「俺が知りたいのはこれだけだ、ノアの過去は詮索しない」
「……」
「どうだ」
「悪いけど、ない」
レイはフッと笑うと「そうか」と呟いて笑顔を見せた。
「それがどうした? なんか嬉しそうだな」
「いや、吹っ切れただけだ。ヨシ!」
レイはノックをして医務室に入っていった。
「何だ、何なんだよ。気になるだろ」
すぐにレイが医務室から顔だけ戻して「ランスに一撃与えられずすまない。それから、応援、ありがとう」と言って、またバタンと扉を閉めた。
「ちょ、 ……もう」と言って、ノアはため息をついた。
医務室は広く明るかった。壁には、丸い瓶底をたくさん並べた様なガラスが嵌め込まれ、採光を取り入れる工夫がされていた。窓際には診察用のベットや机、医療に使われると思わしき道具や薬の置かれた棚、壁際には簡易的なベットが4つ衝立で区切られ置かれている。
医務室の奥は病棟が続いているらしく、黒いローブ状のトゥニカ(ワンピース)に白いウィンプル(頭巾)と黒のベールを頭にかぶった修道服姿の女性が忙しなく行き来していた。
レイは上着を全て脱ぎ、ベットの上にうつ伏せに寝転がっていた。
「ああ、これはひどいな、今晩は熱が出てくるかもな」
若い修道服姿の女性がレイの背中を見て声をかけた。「医務室長のクレテイスだ」と名乗っていた。若いながらも偉いらしく、仕切りに他の修道士がやって来てはクレテイスの指示を仰いでいる。
「待ってろ、今、薬を持って来る」
待たされてる間、レイはそのまま眠りに落ちそうになった。
不意に「おい」と声がかかる。衝立の向こうから顔中に包帯を巻き、短髪の髪が焦げ散り散りになった男がこちらを見ていた。
「誰だ?」
「お前にやられた男だよ」
レイの脳裏に、炎の魔法を使ったフード姿の男トーブとの一戦がよぎった。
「ああ」
「負けたのか」
「ああ」
「チッ、お前が負けたら、お前に負けた俺の地位がまた下がるじゃねえか」
「悪いな」
「チッ、ついてねー」
と呟いてトーブが衝立から顔を引っ込めた。
「ひとついい事教えてやろうか?」
「なんだ?」
「あのクレテイスってのには逆らわない方がいいぞ。医療部隊の副隊長らしい」
「そうか」
「やばいぞ」
「……」
それきりトーブは黙ってしまった。
しばらくして、クレテイスが薬の小瓶とガーゼや包帯を持って戻って来た。
「今晩は熱が出てくるかもしれないから、ここで休め。食事もここに運ばせてやる。おい! そっちにいるお前もだ」
「はい!」とトーブが元気な声を返す。
クレテイスがガーゼを薬に浸しながら話して来た。
「まあ、食って休めばすぐ元気になるよ。心配するな。熱が出て来てしんどくなったらすぐに呼べ。飲み薬やるから」
「はい」
レイは、優しい人じゃないかと安心して体を楽にした。
「あ、そうだ。バナナ食うか? 総長が患者のためにと、南方へ行った帰りに、大量に買って来てくれたのがあるんだ」
バナナ? あーあれか。とレイはノアとモーラが食っていたバナナを思い出した。
「おい、シャルル、バナナを1本持って来てくれ。そっちの奴にも1本やってくれ」
少し遠くから声が聞こえて来る。
「え、ありませんよ。バナナ」
「見舞い品の棚のバナナだ」
「ええ、何もありません」
「なに?」
そう言うとクレテイスが立ち上がり棚を見に行く。
「どうした、ここのバナナは?」
また別の修道士が声を掛けた。
「先ほど、ここで治療した二人が全部持っていきましたが」
「全部?」
「ええ、食べていいと許可をもらったとかおっしゃって」
「ハァ? 確かにあんなにいっぱいあったから食べれるだけ食べていいぞとは言ったが、普通1本か2本だろ。食いしん坊でも5本も食えば十分だろ。あれ、何本あったと思ってんだ!」
「……」
「ヌヌヌ、いきなりナンパしてくる奴がいたかと思ったら、今度は総長からのバナナを全て食べただとー!! 今回のテスト生はどうなってんだ!!!」
クレテイスが薬つきのガーゼをレイの背中に叩きつけた。
「グッ〜、ガッ……」といきなりの痛みに思わず声が漏れるレイ。その後も荒々しい治療に声が出てしまう。
そして「二人を連れて来い!!」とクレテイスの怒声が響き渡った。
やばいぞ。ノア、モーラ、やばいぞ。
とレイは痛みに耐えながら思っていた。




