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シエンナ騎士団 10 / 13

 ジリジリとした戦いが続く。

 まるで先に動いた方が負けとでも言うかの如く、お互いが相手の動きに全ての精神を集中させていた。僅かな遅れが勝敗を分ける。どちらが機先を制するかを周りは固唾を飲んで見守った。


 !! 


 閃光が走ったと思った一瞬に全てが凝縮される。

 両者、貯めていた力を爆発させたかの様な跳躍を見せたと思うと、木製の剣とは思えぬほどの打撃音を轟かせ中央でブロードソードがぶつかり合った。レイは腕にかかる重い衝撃と駆け巡る痺れに確かな手応えを感じた。ランスの跳躍を止めたのだ。そして確かにランスの表情に一瞬の驚きを見た。


 レイは更に腕に力を込めランスのブロードソードを弾き返すと、足を踏み出し全力で肩からランスにぶつかりに行った。吹き飛ぶ様な激しい激突が起こる、はずだった。


 しかしその攻撃は当たらなかった。ランスは弾かれたブロードソードの勢いを借りて体を軸に1回転してレイの激突を避けた。


 レイの眼前からランスが消えたと共に背中に激痛が走った。回転したランスのブロードソードがその勢いのままレイの背中に打ち付けられたのだった。


 全ては一瞬だった。

 風が後からつきて来た。

 そしてレイは弾かれる様に前に倒れた。


「勝者、ランス!」


 試験官グレーンの一際大きな声が響く。


 レイは圧縮された時間から急に解き放たれ現実に、感覚が麻痺しすぐに実感できなかったが、腕に残る痺れ、背中の焼ける様な痛み、倒れた位置から見える違和感のある風景、周りの喧騒から、試合が終わりそして負けた事を痛感した。立ちあがろうとして声が漏れる。


「負けたのか。 ……戦場ではこれで死んでたんだな」

「死なないさ。戦場では一人で戦うわけじゃないだろ」


 レイが見上げるとノアが脇に立っていた。


「私もいる」


 レイはしばらく黙った後、ノアの言葉を噛み締めて「……ああ」とだけ返事をした。そして立ちあがろうとしたが、全ての力を出し切ったのか足に力が入らずよろめき座り込んだ。

 グレーンが近づいてきて声をかける。


「大丈夫か?」 

「ええまあ」

「そうか。なら、これからすぐ合格者の発表をする。発表が終わったらすぐに医務室に行き背中を見てもらうといい」

「はい」


 合格発表の言葉にノアがピクンと反応した。

 試験官グレーンは踵を返すと、広間中央に移動しランスにも声を掛けた。

 そして、「これから合格発表を行う。皆、その場で聞く様に!」と声を轟かせた。


 固唾を飲む周囲とは裏腹に、グレーンは気が抜けるほど呆気なく発表した。


「全員、合格だ!」


 騒めきが起きる。

 レイはフッと笑いが込み上げて来てノアを見た。ノアは目を輝かせながら大きな口を開けてレイを見た。レイは何だかおかしくなって、再びフフッと笑った。


「おい、じゃあ、今日の試合に何の意味があんだよ」


 モーラが巨体を揺らし訊くと、グレーンが他のシエンナ騎士団達の元に戻って答えた。


「今日ここに来ている試験官は、皆シエンナ騎士団にある各部署を代表して来ている。今日の試合は今後の振り分けの参考にさせてもらう。それから、合格と言っても、まだ見習いだ。本当の試験はここから始まると思った方がいい」




 老騎士ヴィベールが隣の女騎士に囁いた。


「アヌシビ、今回は結構面白い奴が揃ってんじゃないか?」


 アヌシビと呼ばれた女騎士が表情を変えずに静かに返す。


「どうでしょう? 残れるかしら」

「隠密部隊にゃ、向かねえか?」

「まだ、分からないですわ」


 ヴィベールはアヌシビの隣にいた、並んだ騎士団の中では一番小さな男に声を掛けた。


「セイセルー、魔法を使う奴がこんなとこ来るなんて、どれぐらいぶりだ? 魔法部隊は喜ぶだろ」 

「でも炎じゃねえ」


 と言って男は手を振った。


「ま、でもヴィベール殿。今回一番大変なのは軍務長補佐頭のあなたではなくて」


 と言ってアヌシビは広間の脇にある、無惨にもボロボロになった木製の武具の塊を見て呟いた。


 「そうだった。ハァ〜」とヴィベールは大きくため息をついた後、腕を組んで「俺はまずあのチビっこい奴に道具の大切さをわからせてやる」と力強く言いながら決意した。

 

 


 グレーンが今後の段取りを皆に手短に話終わり、「私からは以上だ。最後に、モンペリ軍務長から一言」と軍団の中に戻った。グレーンの代わりに、一番奥に控えていた、若く比較的華奢な男が前へと出て来た。面長の顔に綺麗なダークブロンドの長髪、整った顔立ちはとても戦に向きそうにない格好に見えた。


「おい、あれが軍務長か」

「やけに若い」

「強いのか?」


 広間の中が僅かに騒々しくなった。

 しかしモンペリ軍務長は意に返さず、中央にまで来ると迫力のある一言を発した。


「私からは一言『耐えて生きぬけ!』以上だ!」


 モンペリ軍務長は、一言で広間の空気を厳粛なものに変え、その言葉だけを残すと颯爽と広間を出て行った。他のシエンナ騎士団の試験官達も後に続く。


 『耐えて生きぬけ!』合格を受け安堵していたレイ、ノア、そして他の皆も、次の日から始まる見習いの訓練において、すぐにこの言葉の意味を知ることになる。


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