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第2話 引退秒読み

「嘘!? 本当にそれだけなの? 1万回再生された動画もあったのに」


「あったな。〈夜中のコンビニの前でたむろしてるヤンキーをナマハゲの格好で追い回してみた〉のことだろ?」


 俺が投稿した動画の中で唯一、1万回再生を超えてプチバズりした動画だ。結局追い回すどころか逆上したヤンキーに追い回されて必死で逃げたのも今では懐かしい思い出だ。なのにチャンネル登録者数149人ってどういうことなんだ。残りの推定9000人はどこに行ったんだ。


「知ってる? あの後ヤンキーの人が家に来たんだよ」


「マジで!?」


 初耳だった。別の県で撮ればここまで来ないだろうと思っていたのに、わざわざこんなところまでお礼参りに来たのか。そもそもどうやって俺の身元を特定したんだ。ヤンキーが謎の情報網を張り巡らせているのは噂で耳にしたことがあるが、他県にまで及んでいるとは思わなかった。


「だ、大丈夫だったのか……?」


「うん。YouTubeに出してくれてありがとうだって」


「いや良い子かそいつ!」


「あとお兄ちゃんのおかげで〈俺をナマハゲの格好で脅かしに来たYouTuberをボコりにチャリで来た〉って動画がバズったって喜んでたよ」


「何でそっちがバズってんだよ!? 納得いかねえぞ!」


「後はライン交換しよって言われたかな」


「最後ナンパになってるじゃねえか! まさか交換したのか?」


「一応ね。お兄ちゃんとの一件をきっかけにYouTuberになったって言ってたし、それなら変なことはされないかなって思って。確かチャンネルはこれだったかな。ほら」


 梓が見せてきたスマホを覗き込んでみると〈レッドテル〉というYouTubeチャンネルが映し出されていた。ここ最近は動画制作に打ち込むあまり新参YouTuberの情報を確認していなかったが、問題はそこではない。


「チャンネル登録者数10万人越えだと!?」


 俺は梓からスマホを奪い取り、動画一覧のサムネを食い入るように確認した。


 どうやらレッドテルは過激寄りの動画を主に上げているようだ。俺をボコりにチャリで何とやらの動画は10万回再生されている。他にも副業でYouTuberをやっている格闘家とスパーリングをする動画や、筋肉YouTuberに腕相撲を挑んでいる動画も人気を博している。何よりこいつ、あの喧嘩自慢を集めた格闘技大会に出場を果たしている。そうか、これで知名度を一気に稼いで有名YouTuberの仲間入りを果たしたのか。


「ゆ、許せねえ……!」


 俺はわなわなと体を震わせた。


 何てふてえ野郎だ。引退秒読み状態の俺を差し置いて一躍人気者に成り上がるなんて。それにしても俺の家まで突りに来たモザイクだらけの動画が10万回再生を超えているのは予想外だ。この界隈は何がきっかけでバズるか分かったものではない。


 俺はレッドテルのTwitterアカウントを確認した。ナマハゲに扮装した俺を追いかけ回してきた時は、ダイビングスーツみたいにぴっちりしたジャージを着ていたのに、YouTuberに転身してからは時代錯誤な赤い特攻服を着用している。他の主要SNSでも複数アカウントを開設しており、それぞれに一日一回は必ずコメントを投稿している。コラボ先で撮った写真も積極的に上げている。喧嘩自慢大会で知り合いになった連中とも積極的にコラボを実施していた。


「この人もしかしたらチャンネル登録者数100万人越えの人気者になるかもね」


「ば、バカな! こいつの動画ほとんど俺のと変わらないぞ! 喧嘩自慢大会出場とコラボだけでここまで差がつくものなのか!?」


「お兄ちゃんも有名な人とコラボすれば良かったのにね。その喧嘩自慢大会にも出れば良かったんじゃない?」


「実は出ようとして書類選考で落とされたんだよ」


「それは運がなかったね。でもあれでしょ? 数字を伸ばしたいなら有名な人とコラボするのが手っ取り早いんでしょ? そうすれば良かったじゃん」


「俺みたいな底辺YouTuberがコラボを持ち掛けても相手にされないだろうし、向こうのファンに売名行為だって叩かれるからやらなかったんだよ」


「何か迷惑系の人で有名人にアポイントなしで突撃する人とか昔いたけどすごい嫌われてたもんね。ああまでして人気者になろうとしなかっただけお兄ちゃんはまともだよ。でも今のYouTubeでまともにやって注目を集めるのは難しいよ」


 梓は俺の手からスマホを奪い返すと、ソファーで横になった。


「そういえば100日目の動画はもうできたの?」


 俺ははたと我に返った。そうだ、いけ好かないことこの上ないレッドテルのバズりを気にしている場合ではない。


 100日目の動画のタイトルは〈100日間動画投稿してチャンネル登録者数1000人を超えなかったら即引退〉だ。


 明日学校から帰ったら投稿する予定だったが、動画を作る前から結果は目に見えている。


「お兄ちゃんは十分頑張ったよ」


 梓は憐憫の目を向けてきた。


 こんなメンタルを引き摺ったまま100日目を迎えるのは辛すぎる。

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