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第14話 オフ会の誘い

▽▽▽


「ううむ……これはダメそうだな」


 俺はオーディションに送った動画の再生回数を確認してからぼやいた。


 応募してから一週間ほど経過したが、俺の動画が再生された回数はたったの三回だった。


「冒頭の声を聞いただけで無いと判断されたんだろうな」


 Vtuberは声に魅力があるかどうかも重要だ。もちろんそれがすべてではないが、昨今のV界隈の盛り上がりを受け、殺到している応募者の動画を隈なく観るほど採用担当者も暇ではないはずだ。取っ掛かり数秒の声にぴんと来なければ不採用の決を下しているのだろう。


 自分で言っていて悲しくなるが、俺は特徴のない声をしている。Vtuberには声優志望、あるいは本職の声優がいるという話だ。その道で知られた生主も転生している。地道な活動で得た知名度と何かしらの長所を持っている人を相手に一般人に毛が生えた程度の俺が張り合うのは圧倒的に不利と言える。俺以外の一般人も大勢オーディションに参加しているはずだ。時を経るにつれてオーディションの倍率はどんどん上がっているのだ。


「これじゃ合格は厳しいだろうな」


 元より駄目で元々の挑戦だったが、それでも淡い期待は抱いていた。選考結果が出るのは数か月先だが、この有様では望みは薄いだろう。


「思い付きの行動だったからな。この際すっぱり諦めて次に行くか」


 俺は背もたれに寄り掛かった。Vtuberがダメとなると次はどうしたものか。YouTuber時代に培った知識と経験を活かせる道があればその方面でやっていきたいのが本音だ。いっそのこと裏方に回るのもアリかもしれない。動画編集の仕事も需要が高まっている。カメラマンとして働くのも悪くはない。アルバイトからステップアップして将来的にその手の業界を目指していく、あるいはその経験を他業種で活かしていく。考えようによっては無限大の可能性があるのだ。


 あれこれと物思いに耽っていた時だった。スマホが震え出した。


『今お時間ありますか?』


 ママー・テレサからのメッセージだった。俺は『あるけどどうかしたのか?』と返信した。


『はい。実はVtuberのオーディションのことですが、どうやら不合格になりそうです』


「マジか。そっちもダメだったか」


 二人揃って不合格とは無残な結果だが、元底辺YouTuberとネカマでは初めから望みは皆無だったのだ。


『少し自信があったのですが、箸にも棒にもかからないのは予想外でした』


『何か秘策でもあったのか?』


『はい。実はボイスチェンジャーで声を加工して歌ってみた動画を送ったんです』


「なるほど。バ美肉、だったか? として応募したのか。中々の勝負に出たな」


 今はフリーソフトのボイスチェンジャーを簡単に手に入れられる時代だ。それを利用して現実ではおっさん、電脳世界では美少女の二足草鞋として活動するvtuberをバ美肉と言うそうだ。ママー・テレサもその路線で行こうとしたらしい。生き方は人それぞれだから否定するつもりはないが、もし俺の親父がやってたら正直引く。


『ちなみに何を歌ったんだ?』


『英語のヒップホップを歌いました』


「なるほど。奇を衒ったのか」


 アニソンやボカロ曲でも歌ったのかと思えば、そう来たか。安易に流行りに走らず独自路線で行こうとした発想は悪くないが、物珍しくても需要がなければファンは付かない。選んだジャンルが悪かったとしか言いようがない。


『そういえばどこの事務所に応募したんだ?』


『ディアボロスです』


「そりゃ落ちるわ」


 アイドル路線の事務所に英語のヒップホップで応募するとか正気の沙汰じゃない。


『独自性を前面に押し出せば目をかけてもらえると踏んだのですが、駄目そうです。これなら余計なことをしないで有りの儘で勝負すれば良かったです』


「有りの儘か。確かにそれは大事かもな」


 従来にないやり方で目立てば最初のうちは人目を引くことはできるが、それを続けていくのは至難の業だ。自分を押し殺した活動を続けて精神が参り、ダメになる例は数え切れないほどある。有りの儘でいられればそれがベストだが、どんな形であれ、人に見られる仕事をするからには演じなければならない部分も出てくる。正直に生きていけるほど世間は優しくないのだ。


『素のままでも声に自信はあるのですが、目立とうとしたのが間違いでした。てへ』


「男がてへとか言うな」


 恥ずかしくないのか、まったく。


 声と言えば、ラーメン屋で見掛けた美少女は鈴を転がすような声をしていた。金髪碧眼で顔も良くてスタイルも抜群でおまけに大食いという、一度見たら忘れられない強烈な個性を持っていた。もしかしたら俺が知らないだけでその道の有名人だったのかもしれない。そうでなくても都会を歩けば芸能事務所のスカウトマンが引っ切り無しに声をかけるはずだ。あの子はそれほどの逸材だった。またどこかでお目にかかりたいものだ。


『あの、本当は合格記念という形が望ましかったのですが、これも何かの縁ですし、不合格でもこれから頑張ろうのオフ会ということで、一度お会いしてみませんか?』


「またこの話か。どうしたもんかなあ」


 俺は腕を組んだ。引退した身とはいえ、リアルでファンに会うのはどうなのだろうか。連絡を取り合ってみた限り、ママー・テレサは信用に値する人だが、そうやって足を運んだ先で被害に遭った例は山ほどある。例え自分が男であろうと油断はできない。


「でも、ここまで誘ってくれてるのに断るのも悪いよな」


 ママー・テレサはYouTuberを引退した俺をずっと気遣ってくれている聖人だ。正直誘ってくれるのは嬉しい。断られ続けているのに誘い続ける勇気と忍耐力は尊敬に値する。


 俺もYouTuberの一人として界隈を盛り上げようとしていた身だ。ファン一人の要望に応えても罰は当たらないはずだ。


 『分かりました。一度お会いしましょう。ご都合の良い日時はありますか? 教えていただければ幸いです』


『何で急に丁寧な文章に……距離を感じて寂しいのですが』


「これから社会人に会おうってのに砕けた態度でいるわけにはいかないからな」


 何はともあれ、俺はママー・テレサとリアルで会うことになった。

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