27~28話
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同時刻、闘技場の中央近くの舞台では、ジュリアが男子ボクサーと向かい合っていた。袖なしのシャツとハーフ・パンツは鮮やかな青で、それらが包む肉体は、子供ながらによく引き締まっていた。両手には、真っ赤なグローブを付けている。ジュリアの友達のレオンだった。
「ジュリア、今日こそお前にゃ負けねーぞ。お前に負けまくって、俺のプライドはずたずただ! 今回は完全完璧に勝ってやるから覚悟しとけ」
「いやいやレオン。とっても残念だけど、そりゃあ無理だよ。あたしは誰にも止めらんないからさぁ」
(しょっぱなはレオンかぁ。もっとおっきくなったら、男の子にはどうやっても勝てなくなんだろな。でも、まーだまだ、あたしは君らのうーんと先を行っちゃうんだから。今日も当然あたしが勝っちゃうよ!)
ジュリアが言葉を切るなり、レオンはファイティング・ポーズを取った。僅かに遅れて、ジュリアはジンガを始めた。リズムに乗りつつ、ゆらゆらと接近していく。
身体が半分ほどの距離まで近づいた。レオンはノー・モーションで、頭にジャブを放ってきた。
腰を落としてジュリアは回避。しゃがみつつ左足を前に持っていき、レオンの足を狙う。攻撃を避けつつ足払いを掛けるネガティーヴァである。
レオンは軽快に一歩引いた。地に伏すジュリアは、両手で地面を押した。レオンの腹へと頭突きをかます。
レオンは腰の下から左腕を回した。ジュリアの顎を打ち抜く気だ。
ジュリアは右腕を顎下に遣り、パンチの威力を減らした。パンチで少し軌道が変わるも、ジュリアのカベサーダ(頭突き)が腹部に入った。バランスを崩したレオンは、ステップを踏んで離れていく。
(いったーい。まともにアッパーを貰っちゃったかぁ。でもなんか、楽しくなってきたよね。気を付けなきゃダメだよレオン。ハイになったあたしは、だーれも手がつけられないんだからさ)
ジュリアは、僅かにふらつきながら、レオンに蛙を睨む蛇の笑顔を向けた。
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ジュリア対レオンの試合は、乱打戦が続いた。双方ともガードに重きを置かない戦い方だった。
ガンッッ! レオンの両耳を打ったジュリアの頭の中に、鈍い音が鳴り響いた。ガロパンテ(お椀状の両手による耳への攻撃)の直後に食らった右ストレートのせいだった。
よろめいたジュリアは、堪えきれずに尻餅を搗いた。ダメージは着実に蓄積していた。
レオンはキックで追撃してきた。地面上の石に対して行うような蹴りだった。
やや上げた左足でジュリアはなんとか防御。地に突くと同時に腰を持ち上げ、フル・パワーで右足を振り上げる。
レオンはスウェー(後方への頭の移動)で回避を試みる。が、足は顎を掠めた。ぐらりとするも、レオンは足の裏での攻撃を続ける。
ジュリアはすかさずバク転。着地するや否やぐっと前に踏み込んだ。勢いを付けてジョエリャーダ(膝蹴り)を当てる。
一瞬、動きを止めたレオンは、大きく後退していった。
(ここで決める! 絶対!)ジュリアはダッシュを始めた。レオンの手前で横回転し、足を斜め上方に押し出した。
ドゴッ! と頭に受けたレオンは、背中から地に落ちた。大の字になると、とても残念そうに話し始める。
「あーくそ。まーた負けたか。どーにもお前には敵わねえな」
「あたしは無敵! だから今日の勝利も必然だよっ! まあでもやってて楽しかったよ。またやろう。あたしはいつでもばっち来いだからさ」
レオンに熱い視線をやりつつ、ジュリアは興奮気味に嘯いた。




