25~26話
25
リィファは両手を龍爪掌(指を開いて掌を窪ませた状態)にし、半身で腰を落とした。呼吸で集中を高めつつ、相手の身体全体に目を配る。
柔道家は、軽く握った両手を胸の前で緩やかに上下させている。ゆったりした足踏みは、距離を測っているようだった。
(様子見をしてても始まらないよね。あっという間に勝って、ジュリアちゃんをびっくりさせちゃおう)
決心したリィファは、ひたひたと高速で接近。左手の甲を、頭を目掛けて振り下ろした。
柔道家は、右手を合わせてきた。だがリィファには焦りはない。攻めを防がれてからの臨機応変な連撃が、八卦掌の真骨頂である。
接触を感じたリィファは手を翻そうとした。しかし柔道家はリィファの反応より早く、右手で左袖を掴んだ。僅かの後に、左手が右襟に至る。
背を向けた柔道家は、左足を外に伸ばした。両手でリィファを引き込んで、出した左足にぶつける。
視界が一回転したかと思うと、どんっと背中から地面に叩き付けられた。風景の色が突然、変化し、リィファの呼吸は一瞬止まる。
追撃を予感したリィファは、とっさに両手を振り払った。立ち上がって距離を取ると、柔道家もすっと直立姿勢に戻った。
(なるほど。不用意に近づいたら投げられちゃうんだ。厄介だな。作戦を充分に練って、うまく立ち回ってかないといけないか)
考えを纏めたリィファは咳払いをし、再び試合に没頭し始める。ダメージは小さくないが、この程度で音を上げるつもりは毛頭なかった。
26
試合は、再び均衡状態となった。
観客は雰囲気を読んで、静まり返っている。柔道家は初めと変わらぬ様で、神経を張り詰めさせていた。
リィファはふっと露骨に力を抜き、構えを僅かばかり解いて隙を作った。柔道家は即座に摺足で近づいてくる。
開いた右手が、リィファの左襟に伸びてきた。リィファは、手首を合わせてお椀状にした両手を真下から突き上げる。
去なされた柔道家の手が、円を描いて下に落ちた。
リィファは同時に、右足を擺歩で前に出した。左足を進め、両腕で柔道家の右腕を制して動きを封じる。
柔道家はすぐさま、右手を押し返してきた。その勢いを利用して、リィファは両手を柔道家の右腕上を滑らせた。
両手の椀が顎にぶつかり、柔道家はぐっと上を向くような姿勢になった。顔を歪めて一歩よろりと退く。
リィファは右足の裏で脇を蹴り、そのまま身体を伝わせて、左腿を踏み付けた。ぐらつく柔道家は左足を引き、どうにか距離を取ろうとする。
だが好機を逃すリィファではない。すばやく右手を牛舌掌に変えて、一直線に目潰しを繰り出す。
リィファの指先は、柔道家の目の僅か手前でぴたりと静止した。柔道家はふっと悔しげな面持ちになり、「まいった」と苦々しげに口にした。リィファはふうっと、安堵の吐息を漏らす。
(良かった、なんとか勝てた。でもやっぱり、この国はレベルが高いな。気を引き締めてかないと、あっさり負けちゃうよね)
舞台の中央に戻った二人は、タイミングを合わせてお辞儀をした。




