23~24話
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武闘会の日の午前十時、シルバとリィファは、武闘会の会場である円形闘技場に向かった。昼の日差しが照り付ける道をしばらく行くと、巨大な建築物が視界に入ってきた。
円形闘技場は巨月の創造時より国の中心に存在し、アストーリの起点となった建物とされていた。規模は人口に不釣り合いで、古風で無骨な石造りだった。
高さは一般家屋の十階ほどで、円の径は、全国民が手を繋いでも繋ぎ切れるかわからないほど大きい。上下の至る所に半円を下に伸ばした形の空洞が見られ、奥には同じ石製の観客席が並んでいた。
二人は最下段の空洞を潜り、観客席の裏の薄暗い空間を抜けていった。
中には、乾いた広大な土の地面が広がっていた。周囲には歴史を感じさせる観客席が、見下ろすかのように聳え立っている。
中央のでは、大人と子供、合計五十人ほどが、なんとなく固まって会話や体操をしていた。真剣そうだったり楽しげだったり、それぞれ武闘会への思い入れは違う様子だった。
「お久しぶりだね、二人とも! いやー、ついにこの日が来た! 来てしまった!」と、背後から跳び跳ねるような声がした。二人は同時に振り返った。
すぐ目の前に、ジュリアが立っていた。少し後ろでは、トウゴが見守るように小さく笑っている。
「久しぶりって、一昨日に押し掛けてきたばっかだろ? 『てっきじょーしさつー(敵情視察)』って歌いながらよ」
シルバはジュリアの目を見つつ、冷静に指摘をした。
ジュリアはすぐに、きゅっと口を引き結んだ。シルバを見返す眼光は妙に鋭い。
「まぁったくセンセーったら。なーんにもわかってないよね! 『男子、三日会わざれば刮目して見よ』! そのクールな両の眼をしかと開いて、あたしのホンシツ(本質)を見極めなくっちゃ!」
「お前女子だし二日しか経ってねえし、返答が微妙にかみ合ってねえし。突っ込みどころ満載だよな」
呆れたシルバの低い声にも、ジュリアの顔の輝きは収まらなかった。
すっとリィファが、シルバの隣に出てきた。薄く穏やかな笑みは大きな自信に満ちている。
「今日はよろしく。一緒に勝ち進んで、決勝で会おうね。でもわたし、今日はジュリアちゃんにも勝っちゃうんだから!」
「おっ! あたし的優勝候補ランキング、ダントツ・トップのあたしに勝つとは、ずいぶんと大きく出たね、リィファちゃん。想像以上のビックマウスガールだ! だけれど残念ながらそいつぁ、叶えるわけにはいかないよ」
ジュリアは、リィファと睨み合った。教え子二人の仲の良さに、シルバは微笑ましい思いだった。
「可愛らしい宣戦布告も済んだし、受付に行くか。ジュリアもリィファちゃんも、今日はしっかり頼むぞ」
愉快げにトウゴが締めて、一行は受付へと向かった。
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受付後、少ししてから集合が掛かった。まず参加者二十九人による籤引きで、トーナメントの組み合わせを決めた。リィファとジュリアが当たるとしたら、決勝戦となる配置となった。
その後、ルールの説明があった。舞台は地面に描かれた歩幅十歩分ほどの正方形で、場外の場合は仕切り直し、どちらかが降参もしくは気絶しない限り試合は続く、急所への攻撃は寸止めして勝敗は双方の協議に任せる、という規則だった。
聞き終えたリィファは、闘技場にある十六個の舞台の内、隅にあるものに向かった。シードではないので、一回戦から試合があった。
舞台に辿り着いて、辺りを見回す。三十人ほどの観客が立位で舞台を囲んでいて、期待に満ちた眼差しを浮かべていた。
緊張を強めたリィファは、ゆっくりと深呼吸をした。
審判の合図で、リィファは中に入った。向こうからは、同年代の黒髪の男の子が、勇ましい足取りで歩いてきていた。上下とも白色の服で、腰には黒帯を身に着けている。
(あの衣装は、……確か柔道のものだったかな。いつだったか、先生が教えてくれた。戦った経験はないけど、訓練の成果が出せれば大丈夫。わたしの八卦掌は、もう誰にも負けない)
心を整えたリィファは、おもむろに歩を進め始めた。中央での握手の後に、審判の「始め」の声で試合が始まる。




