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舞台装置は闇の中  作者: 彼方灯火
第1章
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第7話 帰還過程

 図書室。


 静寂。


 誰の声も聞こえないこの空間が、月夜は好きだった。


 この空間、という言葉が示す範囲は、もちろん、今彼女がいる図書室に限定されない。もう少し幅の持った概念で、たぶん、この街に存在するどの図書室にも、あるいは、世界中に存在するどの図書室も当て嵌まる。もしくは、図書室だけでなく、図書館も含むといっても良いだろう。一度行ったことがあるものも、一度も行ったことがないものもその中には含まれる。どうしたらこんなふうにものを捉えられるようになるのだろう、と月夜は不思議に思った。いつか訓練した記憶というのもない。生まれつき備わっているものなのだろうか。


 背の低い棚に興味を惹かれる本があって、月夜はしゃがみ込んでそれを手に取る。心理学について書かれた本で、タイトルは、実直に、「心理学入門」とあった。タイトルに関して好き嫌いという判断はあまりしないが、それでも、彼女は、こうしたシンプルなものの方が良いかもな、とは思う。難しい言葉をいくつも並べてそれっぽく見せるよりは、内容を簡潔に表していた方が、好感を持てる。


 難しい言葉とは、どんな言葉だろう?


 言葉なのだから、その示す対象があるはずだ。


 抽象的な概念だと、理解するのが難しいと感じるのだろうか。


 抽象的な概念?


 概念とはすべて抽象的なものではないか?


 愛、公正、正義、責任、立場、空間、時間……。


 どこかに具体的な概念というものがあるだろうか。


 月夜が手に取ったその本は、心理学について本当の意味で科学的に書いたもので、仮説、実証、結果、考察という、スタンダードな手法がとられていた。学問に王道はないと言われるが、彼女はその意味がよく分かっていない。こうしたプロセスには一定のやり方があるのだから、そういう意味では、王道なるものがあると言っても良いのではないだろうか。


(心理学……)


 月夜は、自分の心理というものを、あまり詳しく知らない。理解しようと努力はするが、それで理解できることは稀でしかない。


 自分は、今、何を考えているだろう?


 自分は、今、何を思っているだろう?


 自分は、今、何を感じているだろう?


 自分は、今、何をしているのだろう?


 心理学の本を棚に戻し、その隣にあった哲学の参考書に手を伸ばそうとする。しかし、次の瞬間には、午後の授業が始まる予鈴が鳴った。月夜は教室に戻らなくてはならなかった。

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