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舞台装置は闇の中  作者: 彼方灯火
第1章
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第4話 バス車内

 バス停でフィルと別れ、月夜はその場でバスを待った。彼女のほかにバスを待つ者はいない。目の前を走る道路も今は空いていて、信号の変化に合わせて、自動車が一台か二台通り過ぎるくらいだった。


 なんとなく上をむいて、息を吐き出す。


 高校での生活に、まだ慣れたとはいえなかった。かといって、中学と勝手がまったく異なるというわけでもないから、その時代に築き上げたシステムを、そのまま流用することができる部分もある。


 彼女の周囲には、基本的に誰もいない。周囲というのは、物理的な範囲という意味ではなく、社会的な範囲を示す。平たく言えば、彼女には知り合いや友人と呼べる者がいない。意識的に作ろうとすることはないし、また、今までの彼女がそうした状態にあったのも、意識的にそうしようとしたからではない。彼女は元来そうした性質を帯びているのだ。原子が一つ一つ個性を持っているのと同じように、人間にもまた個性が備わっている。その原因を見出すことは難しい。


 バスがやって来て、月夜はそれに乗り込んだ。定期を見せて所定の位置に座る。本当は毎日色々な座席に座るのも良いと思っていたが、そうすることでほかの乗客にも影響が及ぶかもしれないと思って、毎日同じ席に座っている彼女だった。


 車体が動き出し、窓の外の景色が流れ始める。


 開いている窓から空気が吹き込んでくる。彼女の長い前髪が揺れる。


 自分がなぜ学校に通っているのか、月夜は分からなかった。中学生までは義務教育だから、嫌だと思っても通わざるをえないが、高校はそうではない。入学することを自分で決めない限り、通うことは強制されない。けれど、現代ではそのルールは変質しつつある。高校に通い、そして、大学に通うところまでが、一般的な流れになりつつある。


 選択肢が減ることで得られる自由があるだろうか、と月夜はなんとなく考える。


 また、選択肢が存在することは、本当に自由なのだろうか、とも考えた。


 どちらも不毛な問いだったかもしれない。問うことは、答えることよりは意味があるかもしれないが、問いの中身によってその関係は変わる可能性がある。


 自分は何者か?


 なぜ、高校に通っているのか?


 内容がなくても、その問いは面白いものだと、月夜は思った。


 でも、笑顔になるほどではなかった。


 ……笑顔?


 笑顔とは、何か?

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